top > dream > > 優しさがいっぱい【ガイ・セシル】

優しさがいっぱい【ガイ・セシル】

「……39度4分。ジェイドの旦那の目測通り、おそらく風邪だな」
「す……すみません……」

そう言ってフィーネは申し訳なさそうに毛布に顔を埋めた。
仕方ないな、とガイは小さくため息をつく。

「ここのところ、頑張りすぎて疲れてたんだろう。しばらく休んだほうがいい」
「でっ……でもっ、早く次の街に行かないと……!? ごほっ……ごほっ」
「あ~、言わんこっちゃない」

勢い良く身を起こした拍子に咳き込むフィーネの背中を、ガイは思わず摩ろうとして……。

「おおっ!?」
「ひやっ!?」

二人同時に声を上げる。

「ごごごご、ごめん! そそそその、おおおお俺!」
「いいいいい、いいんです! そっその、私もごご、ごめんなさいっ!」

お互い、面倒くさい体質だと息を整えながら思う。

……確かに、長期的に滞在するのは、危険かもしれない。
かといって、この状態のフィーネを無理やり連れて行くのも気が引ける。
ガイは頭をポリポリと掻いた。

「……ま、キミはそのことについては気にしなくてもいいよ。今は、早く体を治すことを一番に考えてくれ」
「……は……はい……」

(いっそ、別行動を取るか?)

ガイの頭に、ひとつの案が浮かぶ。
自分やフィーネがいなくても、ルークは主戦力たりえているし、ジェイドやティアもいる。
キムラスカの要人の二人をサポートすることは十分にできるはずだ。
先に進んでもらって、後から合流を図ろう。
そう、ガイは考えた。

(お守り役の二人が離れるってのは問題かもしれんが、わかってはくれるだろう。……大佐に提案してくるか……って)

ガイはフィーネを再び横になるよう促しながら、ふと彼女の顔を見入る。
熱のせいで頬は蒸気し、ほんのりと赤くなっていて、彼女の額には汗のせいか、その金色の髪が力なく張り付いている。
熱い吐息を繰り返しながら、力の抜けた瞳で、自分を見つめている。
思わず、ゴクリと唾を飲む。

「フィーネ、その……キミが嫌じゃなければ」

……なぜ、いきなり意識し始めてしまったのだろう。
悲しい男の性なのだろうか?

「みんなと別行動をとろうと思うんだ。キミの看病をしたくて」
「ガイ……様が……?」
「あ、あぁ」

気のせいだろうか。
フィーネの頬がより赤みが増したように思った。
けれどそれはすぐに、戸惑いに変わる。

「ごめんなさい……迷惑をおかけして。皆様にも……ガイ様にも……」
「気にする必要はないさ。同じファブレ家の使用人の仲じゃないか」
「そう……ですね」

気まずい空気が流れた。
少し出過ぎただろうか、とガイは思った。
『ファブレ家の使用人の仲』。
自分は、本当にそれだけのつもりなのか……?
そうだとしたら、彼女とふたりきりのこの状態が既におかしい。
看病……なんて、女性と触れることのできない自分が買ってでたこと自体が。

(……俺、何考えてるんだろう)

ティアと残したほうが、懸命じゃないか。
ジェイドが許可を出すならアニスだっていい。
彼女が倒れたとき。……無我夢中だった。
ここまで運んでくることもできなくて、彼女を抱えたジェイドに嫉妬をした。
せめて看病がしたい。
そう言ってここに居させてもらった。
普段の自分だったら……。

「ありがとう……ございます」

ガイはフィーネの声にハッとして、我に帰った。

「ガイ様は……お優しい……ですね……」
「優しい……?」

コクリと、フィーネは頷いた。
そして、笑顔を浮かべた。

鼓動が早くなる。
体の中が、全身が熱くなる。

「そ、そんなこと、ない! き……気にしないでくれっ」
「いいえ……お優しい、です。そういうところが私……」

恥ずかしくて、ガイは顔を伏せた。
自分まで風邪を引いてしまったのだろうか? そうも思った。
潤んだ瞳で、艶やかな声で。

「……です。ガイ……様、が…………」

ぷっつりと、声が途絶えた。
恐る恐る、顔を上げる。

「フィーネ……?」

名前を呼ぶ。

「……すー……すー……」

返ってきたのは、小さな寝息。

「ハァ~~~~……」

ガイは大きなため息を付いて、しゃがみこんだ。
まだ、心臓がドキドキいっている。

「……こんな体質じゃなかったら、たぶん抱きしめてる……」

ホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちでガイは、部屋をでた。
この時間ならまだ、宿のフロント前のフロアにみんないるだろう。

(提案……してみるけど、俺の心臓も持たないかもしれないな……)

やってくる数日間のふたりだけの時間を思いながら、ガイはゆっくりと歩き始めた。

next
back

return to page top