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別れ路【ヴァン×ガイ】

ああ、きっと。
この腕の中に帰ることはないのだ。

「…残念だ、貴公は私が剣をささげた主。私と共に来ていただきたかった」

そう言うヴァンの瞳に映るかつての主は、厳しい顔をして答えた。

「…俺を主だとまだ思っていてくれるなら、大人しく命令を聞いてほしいね。ヴァンデスデルカ…今すぐ馬鹿な真似はやめるんだ。それが聞けないなら剣は返す」

無理な願いだと、ガイはわかっていた。素直にこの言葉を聞くというのなら、ヴァンは始めから計画を実行しようとはしない。
それほど、堅く深い想いがあった。
次に来るヴァンの言葉を予想して、ガイは決して口に出したくはなかったその言の葉を用意した。

「…聞けません。ガイラルディア様」

一つ、息を吸い込んだ。
これは自分の選んだ道、そしてそれはお前の選んだ道。

「分かった…ならばもうお前とこうして会うことはない」

もう引き返すことはできない、その分かれ道へは。

ガイはヴァンを見た。
眉間に皺を寄せたのは、泣かないためだ。この男との決別は己の過去へのそれを意味する。
そして、この男を愛してしまった自分への。

「ガイラルディア様」
「ヴァ…んふっ…ん…」

ドスンと、背中に当たったのはどうやら壁だ。
逃がすまいと両手の自由を奪われて。
強引にされたくちづけは、以前とは違う。
こんなに、こんなにも激しくヴァンが自分を求めたことなどあっただろうか。

(ルーク…は……もう…行ったか)

聞き耳を立てていたルークの気配はもうなくなっていた。
どこまで聞いていたんだろう。
こんな時にまで彼の存在を気にしてしまうなんてこの十数年、すっかり保護者が板についてしまったようだ。

「んっ…く…はぁ…あっ…ん…」

何度こうして口づけたか、……愛し合ったか。
公爵の、ルークの目の届かない場所で、ふたりで。
女の身体すら知らないガイに快感を教えたのはヴァンだった。ただの好奇心で彼に抱かれたのを覚えている。
それが今や興味だけではなくなったのをヴァンも、ガイ自身もわかっている。
この感情をここで捨てなければならないことも。

「…さらばだ、次にまみえる時は貴公が主であったことは忘れ、本気で行かせてもらう」

ヴァンの手が緩められ、ガイの手は再び自由を得る。
それでもまだ、その手首に、唇にヴァンの感触が残っていた。
ガイはいつのまにか濡れた頬をぬぐって歩き出す。

(…せっかく、我慢してったってのに)

特異な機械音をたて、研究所の扉が閉まる。
ガイはそっと空を仰いだ。
目を瞑れば、楽しかったホドのあの日。
マリィベルがいて、父がいて、母がいて、……ヴァンがいて。

「本当に、さよならだヴァンデスデルカ」

呟いて、ガイは宿屋へと向かう。
自分を信じてくれた、親友の元へ。

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