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確信犯【蛭魔妖一×姉崎まもり】

『あの…姉崎さん。お願いがあるんだけど…』

顔も見たことない女の子 から、ラブレターをもらった。
もちろん私宛じゃなくて、渡してくれっても の。
封筒の宛名は……

「『ヒル魔くんへ』…か」

意外な名 前にまもりは少し驚く。
学校内で誰からも恐れられている彼だったから。
頬を染めたあの子の顔を思い出す。
かわいい子だった。

モテないっ てことはないと思うのよ。

放課後の部活のため、部室へと向かいながら 、まもりは頭の中に彼、蛭魔妖一を思い浮かべた。
すらっとした長身、整っ た目鼻立ち。
それに何よりも試合中の彼は、別人になったかのように格好い い。
納得しかけたところで、まもりはぶんぶんと首を振る。

何で私 、ヒル魔くんのこと考えてるの?!

不覚にも格好いい、なんて思ってし まった自分が何故か悔しい。

「おい、糞マネ。部室の前で何してやがる 」

まもりは飛び上がるほど驚いた。
振り返ると、先ほどから自分の 脳内を占 拠していた男が立っていた。

「なっなによ。私、そんな名前じゃないん だからっ」

ムッとしてヒル魔を見ると、彼はまもりの手に持ってるもの に視線を移していた。
そして、それを取り上げる。

「ほ~、まもり ちゃんが俺にラブレターですか」
「えっ、なっ…」

とんでもない勘 違いをするヒル魔にまもりは顔を真っ赤にして抗議する。
まるでやんちゃ坊 主の顔をしたヒル魔は、笑いながら部室の鍵を開けて入る。

「ちっ違う ってば、もう!」

彼のあとを追ってまもりも部室に入る。

「そ れは、預かったもので…」
「んなことぐらい筆跡見りゃわかる」

さ っきとはうって変わった態度にまもりは困惑する。
ヒル魔がまもりに近づき 、まもりは壁に押しやられる。

「ヒっ、ヒル魔くん…っ」
「どーす んだよ」

唇と唇がくっつきそうなくらい顔を近づけられ、ヒル魔の吐く 息がまもりにかかる。

「俺がコイツと付き合ったら、てめーはどーする 」
「ど 、どうするって言われても…」

まもりの心臓はパンク寸前だ。
早鐘 のように身体中に鳴り響く。

私、どうしちゃったんだろう…。

この状態が嫌なら、突き飛ばしてしまえばいいのに。
そんなことが出来ずに 、このままずっといたいとさえ思う。

「んなこと、てめーは耐えられん のか?」

ヒル魔とあの子が付き合ったら。
自分はどうするのだろう 。
今までのようには行かなくなる。
話す時間も極端に減る。
そんな の…

「そんなの…やだ…」

思ったことがそのまま口に出、まも りは顔を赤くしてうつむいた。

なんでこんなこと……!!

更に 熱を増す身体。
まもりは耐えるかのようにこぶしを握った。

「…な ら、こんなもん預かってくんな」

そのままゆっくりと、唇が近づいた。
優しい緩やかなキスにまもりは目を閉じた。
ざらついた舌の感触が気持ちよ い。
ヒル魔は何度も角度を変えながら、まもりを酔わせていく 。

バタンッ

乱暴に部室の扉が開けられた。
二人は、はっと して唇を離した。
見ると、栗田がお菓子を口に頬張りながら、鞄を下ろして いた。

「どしたの、二人とも」

まもりの顔がみるみる赤くなる のに対し、栗田の顔はみるみる青くなっていく。

「まさか……姉崎さん 」
「く、栗田くんっ!これは…その…」
「………」

焦るまもり を背に、ヒル魔はぽりぽりと頭をかいて彼女から離れる。

「目にゴミが 入っちゃったんだねっ?!」
「……え?」

反射的にヒル魔を見ると 、彼は涼しい顔でいつもの場所に座った。
栗田の性格をよく理解している彼 は、焦る必要など何もなかったのだ。

「そっ、そうなの。ヒル魔くんに取っ てもらってて」
「目に何か入ってるとなんだか変な感じだもんね」

作り笑いをしながらまもりは、鞄からジャージを取り出す。

「それじゃ 私、着替えてくるから」

そう言って、部室からでると、大きなため息を つい てドアを背にへなへなとしゃがみこんだ。

ヒル魔くん、どうしてあんな ことしたんだろう…

心臓の音は落ち着くことなく激しく繰り返す。
素直に受け入れてしまった自分もわからない。
そして何より。

何で あんなにヒル魔くんが誰かと一緒になるのが嫌なんだろ…

まもりは立ち 上がり、更衣室に向かって走り出す。

彼が離れていくのは、なんだか嫌 だ。

そんな気持ちをかかえて。

「ヒル魔、また貰った のか」

部活が終わり、部員がみな帰ったころ、ヒル魔に会いにきたムサ シは、テーブルに無造作に置かれたあのラブレターを手に取った。

「中 学のころから何故かモテたよな」
「……糞マネが預かってきやがった」

表情は変わらずに話していたが、先ほどまでキーボードを叩いていた手は止まっ ていた。

「姉崎さんが?…そりゃ彼女可哀想だったな」
「おい、糞 ジジイ。どういう意味だ」

ポケットからガムを取り出すと、ヒル魔はそ れを口に入れた。

「好きな女から、他から預かったラブレター渡されりゃ、さすがのお前で も何かしたんじゃねえか?」
「………そりゃあな」

ヒル魔は部活前 の出来事を思い出す。
自分が別の女と付き合ってもこいつは平気なんだと勝 手に思い、気づいたら彼女に口付けていた。

糞、ムナクソ悪ぃ。

まもりが他人の自分宛のラブレターを持ってきたことも、自分を押さえることが 出来なかったことも。

「卑怯者」
「あぁ?」

先ほどから不 可思議な発言をするムサシにヒル魔はイライラした。

「確信犯…ってや つだろ?」
「………まぁな」

少し考え、ヒル魔はそう答えた。

「本人が気づいてねぇのが痛ぇな」
「どうしようもねえくらいに鈍感だから な」

ムサシは、その鈍感な彼女がここを出るときに入れていったコーヒ ーを静かに飲み干した。

「だが、逃がしゃしねえ」

不敵に笑う ヒル魔を見て、ムサシも笑った。

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