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ワガママなウサギ【夕神 迅×希月 心音】

“まだ子どもだ”なんて、あなたは言うんだろうか。
わたしは、こんなに成長したのに。
……わたしのこと、ちゃんと見てくれてる?

「……ココネ」
自分の胸部や腹部をくすぐる彼女の訝しげな行為が5分を超えた頃、夕神はソファに寝そべっていた体を起こした。
久しぶりの休み、行く宛もないので、昔なじみの……いや、最近は関係が変わりつつある、心音の家へと夕神は来ていた。
心音が隣にいることを実感しながら、静かな休日を過ごそうと思っていたのだが。
名前を呼んで制しても、一向に止まることのない、もどかしい疼き。
夕神は、それまで読み進めていた法律書で、彼女の頭を小突いた。
「いったぁー! 何するんですかー!」
仰向けになっていた夕神をまたぐように乗っていた心音は、その場所に手を置いて抗議をする。
……その言葉をそっくりそのまま返してやりたい。
「弁護士様が検事相手に痴漢行為たァ、良い度胸じゃねェか」
「そ、双方の合意に基づくものなら大丈夫ですっ! 和姦です!」
性行為である点は否定しないのかとか、いつ同意したとか、突っ込みたいところは山のようにあるが、夕神はその思いをため息に変えて大きく吐き出した。
ひとつだけでも答えてもらおうと、口を開く。
「……この行為に至った動機は」
「そこに夕神さんがいたからですっ!」
自信満々の笑顔でVサイン。
もしここが法廷だったら、一閃を食らわせたいところだ。
「月の字ィ……っ」
「ひゃああっ! 冗談です! あながちウソじゃないけど冗談なんですっ!」
夕神に圧倒され、心音は腕を大きく振って弁解した。
彼女の所属事務所お得意の、まどろっこしい“ゆさぶり”をかけたい衝動に駆られる。
「チッ……! 何でもいいからそこをどきな」
ふと、目線の先に彼女の黄色いスカートから伸びる足が見え、夕神は逸らすように額に手を押し当てた。
「あー!! 感じますよ、夕神さん! 今ちょっとヤラシイこと考えたでしょ!」
『ハレンチー!』
鬼の首を取ったかのように嬉々として心音が夕神を追求する。
彼女のモニ太も鮮やかなグリーンで発光している。
(面倒くせェ……)
苛立ちまじりに心の中で毒づいて、手をつく心音の腕を掴んだ。
「ひぇっ!?」
彼女の軽い体を引っ張って、自分は横へ滑る。
手から離れた法律書が、バサリと床に落下する。
あっという間に形勢逆転だ。
「……先月入所したばかりの囚人が言ってたなァ。“寝込みを襲う時は狸寝入りに気をつけろ”。……まぁ、おめえさんは起きてる俺を見てたがな」
「ぐぬぬぬぬ……っ!」
心音が抜け出さないよう、彼女とソファの背の間に膝をつき、掴む部分を腕から手首に替え、彼女の頭上にあるソファの手すりをもう片方の手で掴んだ。
「……で? 本当の理由を聞かせろ、ココネ」
顔を近づけて夕神が問うと、心音は顔を真っ赤にして反らす。
長い髪が小さく揺れた。
「……夕神さん、何にもしてくれないから」
「あ?」
「夕神さんがっ! 恋人同士になったのに何にもしてくれないからっ!」
呆気にとられた夕神に、心音が吠えた。
頭から煙を出さんばかりの勢いだ。
「……だから、盛りのついた猫みたいに人の体弄んだってか?」
「盛りって……っ! それに、まだ弄んでません!!」
十分盛ってるだろう、なんて反論したところでヒートアップするだけだ。
怒っている風の心音だが、目尻には涙が滲んでいる。
それが、夕神の心を責める。
「……いいか、ココネ。俺はおめえさんを守る義がある。……師匠の娘であるおめえさんをだ」
「で、でも! 私は夕神さんが好きなんです!」
「……だからだ」
手すりを握る手に力がこもる。
「大切なおめえさんだから、守らなきゃいけねェ。なのに、俺が、俺自身がそれを裏切ってどうする」
「夕神さん……」
彼女の手首を解放して、夕神は立ち上がった。
壁のヘリにかけていたハンガーから、上着を取り、それを羽織る。
「なっ、どこに行くんですか!?」
「……どこだろうなァ。どちらにしろ、ここにはもう来ねェ」
夕神の言葉に、心音が唇を噛む。
「わたしのこと……っ、女として見れないから……ですか。夕神さんにとっては、お母さんの娘でしかないから」
「……誰が言ったよ、そンなこと」
振り返った夕神の目に、涙を溜めた心音の顔が飛び込んでくる。
「言ったじゃないですか! お母さんの娘だからって! “わたし”だからじゃなくて!」
溢れる涙は限界を超えて、ぼろぼろと彼女の頬を伝った。
「夕神さんにとって、わたしは……わたしは、11歳のあの頃のままで! お母さんの後にくっついてる子どもで! しょうがないから一緒にいてくれるだけなんでしょう!?」
「月の字ィ、いい加減に……」
「だから……っ、だから! キスもエッチもしてくれないんでしょう!」
「黙りなァ!」
ガンっ、と夕神は柱を殴った。
反射的に、心音が口を噤む。
「ダダをこねるのはガキがすることだ。わからねェ頭じゃねェだろう」
夕神はつかつかと心音の傍に寄り、床に膝をつく。
一瞬の間を置いて。
「んんっ!?」
心音の襟元を強引に掴み、噛み付くように口付けた。
無理矢理押し入れた舌が、彼女の口内を撫で、舌に絡み付く。
「っ、っく……っ」
息をしようと身じろぎをする心音をがっちり制して、夕神は再び彼女をソファへ押し倒した。
角度を変えても荒々しさは変わらない。
「……これで満足か」
モニ太が紫色に光っている。
恐怖を感じている。
心音が自分に。
けれどこれくらいがちょうど良いのかもしれない、なんて考えてしまう自分もいる。
「……夕神さんは、わたしのこと、好き、ですか」
心音が両手で目を覆った。
また泣いているのだと、所作でわかった。
「何回言わせンだ、わかるだろう。そのくらい」
おめえさんなら━━そう続けるはずだった。
「聞きたいんです」
震える唇が言葉を紡ぐ。
「夕神さんの口から。……嫌なら嫌って、言って下さい! それなら……諦められるから。お願いだから、中途半端に、しないで……っ」
心の声が聞こえるはずなのに。
法廷で何度もそれをやってみせたのに。
肝心な部分を見ようとしない。
……いや、見ないようにしているんだ。この子は。
「……………ココネ」
彼女の体がビクリと震える。
顔を覆う両手を掴むと、予想外に抵抗無く動いた。
赤くなった目、涙でぐしゃぐしゃになった顔。
夕神はひとつ息を吸い込んだ。
「俺の7年を中途半端なんざ言われちゃァ、黙っちゃおけねェなァ」
「えっ? あ……っ」
一瞬の間を置いて、夕神は心音の額に口づけた。
唇を離すと、前髪を退かしていた右手を、彼女の頭へ、結った長い髪へと滑らせる。
心音が照れたときに撫ぜるその髪をすくいあげて再びキスをする。
閉じた瞼をゆっくりと開いて、夕神は声を発した。
「……好きだ、ココネ。おめえさんのお天道さんのような笑顔も、負けず嫌いなところも、ガキみてぇな行動も、全部ひっくるめて愛おしい」
「ゆう……がみ、さん……」
「……プッ、なんてツラしてんだァ? 威勢がいいと思えば、今日のように急にウジウジ泣きやがる。昔を見ているようだぜ」
夕神は微笑むと、彼女の手を引いて自分の胸へと抱き寄せた。
「てめェはウサギみてェだな。全身で感情を表現して、哀しいときには徹底的に後ろ向きになる」
言いながら、夕神は体を少し離すと、彼女の額に自分のそれをぶつけた。
「それに性欲旺盛と来たもんだ」
「なっ!?」
泣いていた心音の顔が一気に赤くなる。
彼女の髪から手を離し、頬を撫ぜる。
「俺ァ、おめえさんが嫌いなわけじゃない。おめえさんに惚れ込みすぎて逃げてンだ。泣く裁判長も黙る囚人検事、なんて言われてたのに笑えるよなァ」
「そんな……の」
彼女の手を取り、自分の胸元に触れさせる。
「俺の声、聞いてみりゃいい。嘘はついてねェ」
「ジン……くん……っ」
昔の名で呼ばれたかと思うと、心音が抱きついてきた。
彼女の背に腕を回し、頭の後ろをポンポンと軽く叩く。
「ごめん、なさい! ごめんなさい、わたし……っ!」
泣きじゃくる声。
ああ、そう言えばあの頃もこんなことがあったかもしれない。
遠い記憶をうっすらと思い浮かべる。
彼女が危ない真似をしたとき、忙しい母親の代わりにたしなめるのは夕神だった。
「ジンくんがっ、そういうことしないのは、うっ、わた、わたしに興味がなくなったんじゃないかって、考えたら、怖くて……っ!」
「興味があるさァ。おめえさんが逆に離れていかねェか心配なくらいにな」
彼女の白いうなじに口づける。
ゆっくりと顔を離して、瞼へ、頬へと唇を移動する。
涙の味が口の中に染み込んだ。
「は……離れません! 絶対に!!」
鼻をすすってそういう彼女に、小さく「わかった」と答えるとキスをする。
ソファに腰を据えたままだった心音をそのまま押し倒した。
先ほどとは打って変わった、優しい口づけ。
心音も身を任せるように瞳を閉じた。
しばしして。
「……オイ」
「はい……?」
下腹部に違和感を覚えた夕神がキスを中断した。
見れば、心音の手が彼の自身を着衣の上から撫でている。
「……この流れで痴漢行為再開とは、良い度胸してんなァ。月の字ィ」
「希月心音、絶対に諦めないことを教え込まれてますから!」
涙に濡れた瞳のまま、彼女はにっと笑顔を浮かべた。
夕神の睨みも今の心音には通用しない。
「……勝手にしろ」
許可をもらうが否や、心音は夕神の頬に手を伸ばすと、自分の唇を押し当てた。
……初めてだ。彼女からのキスは。
辿々しい唇の動き。
こちらが答えれば、嬉しそうにまた動かす。
(……たまにはこういうのも、悪くねェな)
目を開ければ、瞼を閉じた彼女がぼやけて見えた。
心音のリボンをほどく。
高い場所に結われていた髪が、ふわりと自由に踊っていた。
上着を脱がそうとすると、心音が顔を離してこちらを見上げた。
「何を……」
「勝手にしていいって言いました!」
首筋にちゅっと口づけられ、夕神は身じろぎをした。
彼女からする甘い香りが、鼻をかすめる。
「夕神さんのキス……いつもあったかいんです。わたし、もっと夕神さんが好きって感じるんです」
押し倒していたつもりだったが、いつのまにか彼女の優位に変わっている。
ネクタイを外そうとして試行錯誤する心音を見て、少し緩めてやる。
すぐにするりと首から抜けた。
上着も、ベストも、心音の手で脱がされる。
いつもそうするのは自分なのに、なんだか不思議な心地だ。
「ココネ……」
名前を呼んで髪を撫でる。
また、にこりと笑った。
本当によく表情を変える。
これは慣れていたのか、ワイシャツはなんなくボタンを外せたようだ。
……と。
ゾワリと背筋が震えた。
原因は心音だ。
彼女の舌が、自分の胸を撫ぜている。
以前彼女にした行為を重ねているのだろうか。
「……それは、しなくていい」
下手だったのだろうか、という心の声が顔に出るほど気を落としている心音に首を振る。
「こっちにしておけ」
彼女の手を誘導する。
たどり着いた場所に、心音の顔がかーっと赤くなった。
「……さっきまで嫌という程触ってただろうが!」
「だだだ、だって! 感触が! ぜ、全然違う!」
その言葉に何故か少し傷つきながら、夕神は頭を掻いた。
心音の喉がゴクリと鳴るのが聞こえる。
「……お願いします!」
「おめえさんが願ってどうする……」
気合いの声とともに、心音は夕神のベルトを外し始めた。
そして、ファスナーを下ろす。
黒いボクサータイプの下着が顔を出した。
そのままでもわかる。
夕神のそこは窮屈そうに大きくそそり立っている。
「っ……」
形に沿って、心音の細い手が上下した。
ぎこちない動きがかえってまどろっこしい。
「……もっと速くていい」
「えっ、えっ?」
下着をさげると、彼女の手の上から、自分のそれを握る。
心音は状況がわからず、固まっている。
「力も……もう少し入れろ」
そのまま上下に動かす。
心地よい速さで彼女の手ごと動かした。
心音の手が、自分のモノに触れている。
しごいている。
そんな状況だけでもう果てそうになる。
より速く。より強く。
自慰のようで、そうではない。
その感覚におかしくなりそうだ。
「くっ……!」
パタパタと白いものが飛んで、彼女の手をソファを濡らした。
夕神が肩で息をする。
「…………悪い」
放心している心音の手とソファを、傍らにあったティッシュを2、3枚取り出してひとまず拭いた。
今、手を洗わせる必要があるか多少迷いはしたが。
「ココネ?」
「……っあ!? えっと、そのっ」
しどろもどろな心音の様子に、夕神は、“これが感情の暴走というモンか”と比較的冷静に考えていた。
「ごっ、ごめんなさい! わたし全然だめで……」
『ションボリー……』
モニ太共々しおれる様子に、吹き出して彼女の頭をガシガシ撫でた。
「これでいきなり出来たら、俺がおめえさんを疑っちまわァ。それに、ココネがしたからこうなったんだぜ」
「……本当、ですか?」
「本当さァ」
再び彼女を抱き寄せる。
長い髪を撫でて、顔を埋める。
「夕神さん……わたしも」
「ん?」
心音の言葉に問い返す。
「わたしも……夕神さんにいっぱいして欲しい、です」
「……なんて口説き文句だよ、そりゃァ」
百発百中だ、なんて口には出せない。
けれど、心音には伝わっているのだろう。
答えの代わりに、彼女の唇に自分のそれを重ねる。
今日何度したかわからない口づけをもう一度。
彼女のネクタイに手をかけ、上着を、スカートを脱がしていく。
下着のみにさせたところで、夕神は唇を離した。
「……夕神さんなんだか慣れてる……」
服を脱がされるとき、手伝ったのがいけなかったのだろう。
心音がぷうっとふくれる。
「それがおめえさんとの年の差ってヤツさァ」
そう濁して、うなじに唇を這わせ、右手でブラジャーのフックを外した。
そのまま彼女をソファに寝かせて覆い被さる。
ああ、やはり、見上げるより、見下ろしたほうが落ち着くものだ。
「あっ……!」
上へとずらしたブラジャーから露になった双丘を両手で包んだ。
ピンッと立った華が愛らしい。
ゆるゆると揉むと、甘い声が彼女の口から漏れた。
「んんっ……!」
片方に舌を這わせると、更に反応を見せる。
もう片方を指で弾けばその音色はまた艶やかに変化した。
「夕神……さっ……!」
ぎゅっと頭を抱えられる。
と、同時に心音がビクビクと震えて背中を反らせた。
あまりにも早すぎる。
驚いて顔を上げると、恥ずかしそうに顔を隠す心音がいた。
「……もうイッたのかい」
「ごめんなさい……っ、わたし、もう……っ」
足をモジモジさせて言う彼女に合点が行き、右手を舌へと移動させた。
抵抗をなんなくあしらい、敏感なその場所に触れるとその感触にどきりとする。
そこはぐっしょりと濡れていた。
まだ彼女に触れて間もないのに、だ。
「ココネ」
「きゃー! いやー! 言わないでっ!」
ぶんぶんと顔を横に振り、取り乱すその姿を前に、敢えて口にする。
「さっきの俺で濡らしてたのか?」
絶句する心音に正解と心得、夕神は愉快そうにソファの背をバンバン叩いて笑った。
「痴漢行為はするわ、人の見て濡らすわ、随分だなァ。ココネ」
「ううっ……」
「そんなおめえさんも可愛いと思っちまう俺も随分なんだろうなァ」
「えっ……、ああんっ!?」
彼女が聞き返すのを待たず、心音の蕾に触れる。
クロッチの部分を横へずらし、直で撫でると、より大きな喘ぎ声が響いた。
「はっ、あっ、んんっ、ゆうが、みさ……っ」
熱の篭った彼女の吐息が頬に触れる。
その熱を全て吸い取るかのようなキスをした。
そのまま人差し指で彼女の中を弄る。
この状態ならば問題はなさそうだ。
「いいか、ココネ」
そう言って、夕神はスラックスのポケットからコンドームを取り出した。
口で開ける様を、心音がマジマジと注目している。
「……どうした」
「そ、そそそれ! どうして持ってるんです!?」
彼女が驚くのも無理はない。
先ほどまで『行為はしない』と主張していた男だ。
夕神はバツが悪い顔をして目を閉じる。
「前みてぇなことはもうしたくねえからな」
「えっ、ああああっ!」
その前について、心音が考えるより先に装着の終わった夕神が自身を彼女へと押し入れた。
狭くて熱いその場所は、いつにも増して脈打っている。
「やっ、ひゃあっ、あ、あ、あっ!」
夕神の動きに心音が鳴く。
抱きしめれば、密着した肌と肌が擦れて感情が高まっていく。
「んっ、んんっ、ゆ、がみさっ、ああっ、んっ」
「ココネ……ッ」
どちらともなくキスをする。
そして、強く深く抱きしめ合う。
「好きっ、ですっ、好き……っ!」
お互いに熱を帯びた頬をすり寄せる。
「俺、もさァ……っ、くっ……」
何度となく打ち付けて、抱きかかえるように体位を変えて。
「はっ、あ、あんっ、ああっ、あっ」
「ココ……ネッ、ココネ……ッ!」
夕神は精を彼女の中で吐き出した。

気だるい頭の中をよぎったのは、幼い頃の心音の姿だった。
(ああ、ウサギはやっぱりこいつだったのか……)
まどろみの中で、飛び跳ねた少女は、笑顔で走り回ってた。

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