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らくだ色恋すてふ【夕神迅×希月心音】

……俺ァ今、激しく後悔していた。
ここンところ仕事が続いていやがったこと。
昨夜、馴染みの饅頭で一杯引っ掛けたこと。
翌日その後片付けもせずに出勤したこと。
そして、ココネに家の合鍵を渡していたことを、だ。

「オイ……いい加減起きやがれ、ココネ」
「むーー……ふゃい……むにゃ……」

帰宅した家の惨状に、俺は大きなため息をついた。
姉貴の居ない一人には広すぎる我が家の一室で、眠りこけていやがる女が一人。
――希月心音。
敬愛する師匠の愛娘であり、俺の命よりも大切な女だ。
彼女の傍に転がっているのは、饅頭の包み紙の数々。
只の饅頭なら良かったが……これはらくだまんじゅう、つまりは<<水カステラ>>入りの饅頭ってェわけだ。
饅頭自体は未成年でも食べれはする。しかし。

「……勝手に家に上がり込んで、一体いくつその腹ン中に押し込ンだんだァ?」
「むにゅう……」

……酒臭ェ。
思わず無粋な表現が胸に浮かんだ。
いつかの事件で旋風亭美風がたった一つで酔っ払ったように、今のココネも大量の饅頭を食べた挙句、酩酊したってェとこだろう。
傍らにあった同じ店の酒瓶には、流石に手は付けられていないようだ。
しゃがんで彼女の寝顔を見る。
安心しきった、幸せそうな表情。
赤みを帯びた火照った頬に、力なく緩んだつややかな唇。
仕事着の黄色いスーツはそのままに、短ェスカートがややたくし上げられていて、少し動けばあられもない姿になりそうだ。

「おめえさん、他の男の前でもこんなツラを晒してンじゃねェだろうなァ?」
「んー……」

柔らかなその頬に触れると、冷ややかだった手にジンワリと温もりが広がってくる。
だが、温もりの主にとっては堪らなかったようで、彼女は数度顔をしかめると閉じていた瞼をゆっくりと開いた。

「ゆう……がみ、さん……?」
「おゥ、やっと目が覚めたかい。こんなとこでンなカッコで寝てりゃァ、風邪ひっ……ウオオオッ!?」

ココネの想定外の行動に俺ァ、思わずその場に尻もちをつき、畳にしこたま頭をぶつけていた。
コイツ相手に不覚を取るたァ、俺も落ちたモンだ。

「ふふふっ、夕神さぁん……」
「……おめえさん、さてはまだ酔いが冷めちゃア、いねェなァ?」

目の座ったトロッとした顔でココネが俺を見下ろしていた。
ココネは俺の問いを満面の笑みで返す。……と。

「んッ……!」
「ッ……!?」

唇に押し付けられたのは、ココネのそれだった。
不意を突かれた俺の中に彼女の舌が割って入る。
あまりに強引で、あまりに自分本位なココネが俺の舌に絡みつく。

「んふっ、んんッ、はぁ……んッ」

相手に息を吸わせるタイミングや相手の心境などお構いなしのやりたい放題だ。

「ッ、チイィ……ッ!」

彼女の両肩を掴んで無理矢理自分から引き剥がす。
透明な糸が俺とココネの唇から伸びて、途中で弾けた。
驚いたココネの顔がすぐにまたふやけたかと思うと、次には首に腕を絡めて抱きつきやがる。
……コイツ、まだ凝りてねェ。

「こンの酔っぱらいが! おめえさん、自分が何やってンのかわかってるのか?」

彼女の背中に腕を伸ばして声を荒げると、再びココネは体を起こした。
普段のコイツからは想像できないほど、したたかな笑みを浮かべていた。

「夕神さんだって乗り気……ですよね?」
「ッ……!」

彼女の手が、俺の自身に触れていた。
いくら平静を装っていても、理性なんざ及ばねェ場所だ。
それに、コイツには俺の感情を読み取るチカラがある。
燃え始めた俺の感情を。

「ハッ……! ココネ、大人を……ッ」
「なっ!?」

俺は彼女の足に自分の足を引っ掛けて、身動きを封じると胸ぐらを掴んで一気に身を捩るように起こした。
先程とは形勢逆転、今度は俺がココネを押し倒している格好になる。
彼女の明るい髪が、畳の上にふわりと舞った。

「……からかうモンじゃあねェ」

ニィッと口角を上げて、今度は俺からココネに口づけた。
急な状況変化に戸惑うココネに仕返しするように、彼女の余裕を封じながら舌で攻める。

「んっ……んんッ、う……あっ、んあっ、ふ……ッ」

呼吸なんざさせねェ。おめえさんだけが気持ち良いようにはさせねェ。
絡めて、吸って、歯列をなぞって。
手首を押さえつけていたはずがいつの間にかコイツの手を握っていた。
そんなことにさえ気づけねェほど、俺は夢中だった。
コイツの感情を追い立てて、自分の感情を燃え上がらせる。
舌と舌が絡み合うぐちゅぐちゅという水音と、彼女の熱くアルコールの香りを帯びた吐息がお互いを高ぶらせていく。

「んんっ、ふ……ッ、うぅ、んッ、はっ、あっ……ん、んんっ」

ココネは足を忙しなく動かして、ビクビクと背中を震わせた。
震えるほど強くチカラの入った彼女の手を握り返して、俺はそっと唇を離す。
……イキやがった。
何度か肩で息をして、彼女の手を離すと俺は、目にかかる前髪を一度掻き上げた。
汗を含んで少し湿った髪が、パラパラと時間差で降りてくる。
見れば、彼女も荒い呼吸をしていた。
虚ろな瞳には涙がにじみ、頬は一層紅の色を濃くしている。
ぬらぬらと濡れた唇はだらしなく開いている。
白い肌も沸き立つような熱が集まっているのがわかるほど、小さな珠がふつふつと浮かんでいた。

「ココネ……」

名前を呼ぶと、ゆっくりとその瞳が視線を泳いだ。
その目と目がかち合ったとき、突然彼女が両手で顔を覆った。

「……夕神さん、スミマセン」
「ようやく正気に戻ったかい、居眠り姫さんよォ」
「うぅ……今すぐ穴掘って埋まりたい気分です……」

彼女を今襲っているのは恐らく羞恥。
胸元のモニ太の色でも丸わかりだ。

「ハァッハッハ! そいつァ残念だったな、ココネ」
「ひゃいぃっ!」

彼女の片手を引き剥がす。
まるで茹で蛸みてェな顔がこちらをうかがっていた。

「どうやら今度は俺のスイッチが入っちまったようだぜ、ココネ。……覚悟しなァ」
「えっ、えっ、ええ―っ!?」

to be continued...

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