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大人になりたいシンデレラ【堀 政行×鹿島遊】

今日、何度目かのチャイムが学校中に響き渡る。
本来の部活動の時間はとうに過ぎたが堀政行は、演劇部の看板かつ問題児の鹿島と台本の読み合わせをしていた。
いつものようにサボりまくるバツだ、とは言ったが、それは半分当たっていて、半分間違っている。
ただでさえ、今回は練習日数が少ないのに、いくら彼女の容姿が完璧で、演技もうまいとはいえども、こうも毎日遅刻するようでは内心は少し不安だった。
しかし、読み合わせをするうちに、その気持ちも少しずつ和らいでくる。
「────……“これからはずっと、貴女の傍に”」
凛とした声が、空気に振動する。
やはり自分は、鹿島の声が好きだ。
できるだけ長く聞いていたくなる。
「…………って、先輩? 終わりましたよ?」
「っと、悪い」
我に返ると、机の向かいにいる鹿島が、ずいっと顔をこちらに寄せていた。
見れば見るほど、端正な顔立ちをしている。
「……先輩?」
怪訝そうに眉が動く。
その動きすら、何だか品がある。
「なんでもねえよ」
本人を目の前にして言えるはずもなく、照れ隠しのように彼女の髪をぐしゃぐしゃと力を入れて撫でた。
気がつけば、教室の中が随分暗くなっている。
つい先日までこの時間はまだ明るくて、校舎内にも人の声が響いていた気がするが、季節の移り変わりは早い。
三年である堀は、実を言うともう演劇部の部長でも演劇部ですらないのだが、三年間をつぎ込んだこの空間からまだ、出て行くことができない。
演劇部の、鹿島のいる場所から。
「よっし。戸締まりして帰るぞ、鹿島」
モヤモヤとした感情を振り切るように立ち上がり、努めて明るく堀は彼女に声を掛けた。
瞬間。
ぐいっと襟首を掴まれて前へとつんのめる。
長机が錆びついた音を立てて鹿島の方向へ動く。
「なっ……」
驚いて顔を上げると、鹿島の瞳とかち合った。
(泣いてる……?)
よく見ようとする前に距離を詰められ、視界が揺れる。
唇に柔らかい感触が押し当てられる。
(これって……!?)
驚いて彼女の肩を掴んで引き離した。
「鹿島!? 何をッ」
心臓が警笛のようにバクバクと脈打って、何も考えられなくなる。
そこには、涙でグチャグチャの鹿島がいた。
「……いや、です」
「鹿島……」
「このまま……居て下さい、演劇部に!」
鹿島の頬を伝った滴が、ポトリと机に落ちて円になる。
彼女の表情に、涙に息を飲んでしまって言葉が出てこない。
「もうすぐ先輩がいなくなるなんて……信じられな……」
綺麗だと思った。
自分がいなくなることをこんなに哀しんでくれているのに、堀は目の前で泣きじゃくる鹿島を綺麗だと思った。
そして同時に愛らしいと思った。
そう感じたらもう、止まらなかった。
「先ぱ……ッ」
鹿島の腕を引いて机越しに彼女を抱き締める。
間髪入れずに、彼女の濡れた頬に手を添えた。
「ん……ッ!」
不意打ちに驚いた唇から、舌を差し入れる。
ほとんど無抵抗の彼女のそれを絡め取る。
「ふわっ……せんぱ……」
ぎゅっと、鹿島が堀のワイシャツの裾を握る。
もっと彼女に近づきたくて、片膝を机に乗り上げた。
小さく聞こえる鹿島の吐息が堀を興奮させる。
「鹿島……」
その名を呟いて、もう一度くちづける。
胸の奥から聞こえる早鐘に、一挙一動を急かされているようで仕方がない。
すると、それまでされるがままだった鹿島がキスを途中で拒み、堀の首に腕を回して抱きついた。
「ちょ、おい。鹿島?」
「……あと少しです」
「は?」
堀がそう返すと、鹿島は顔を上げてまだ濡れた瞳を向ける。
「先輩と私が、同じ年でいられる時間」
そう、言葉にされて気づいた。
明日は自分の────……
「どうして……どうしていつも先に行っちゃうんですか。舞台も、部活も、年も。隣に立てたと思ったらすぐにいなくなる」
またはらりと、鹿島の目に溜まった涙が、頬に溢れる。
「私も……私も一緒に卒業したいですよ!」
「鹿島……」
鹿島の頭に手を添え、堀は再び彼女を抱きしめた。
これだけ直球で感情をぶつけてくる鹿島は、ひょっとしたら初めてかもしれない。
いつだって逃げようとするのに、何故か好意むき出しで。
鹿島の本心はいつも、見えそうで見えない。
「キッ、キキ、キスだって……勇気振り絞ったのに! なのに……どうしてさらっともっと激しいのするんですか、もう!」
「わかった、わかった。……悪かったな、鹿島。あんまり泣くと、王子が台無しだぞ」
「台無しでいいんですっ!」
声を震わせて泣くその姿は、確かに王子のそれではない。
まだあどけない、まるで少女漫画のヒロインのような。
「……てください」
嗚咽の中に聞こえた、微かな言葉に耳を傾ける。
「私を……大人にして下さい」
「は……?」
問い返すと同時に、視界が回る。
ガンっと頭をしこたま打ち付けたのは、二人の間にあったはずの長机だ。
「鹿島、なにす……ッ」
片足が着地したのは、机の角だ。
起き上がろうとすると、再び机に押し倒される。
そして、鹿島は身につけていた黒いセーターをおもむろに脱いで、腕から滑らせるように床へと落とした。
「お前……自分が何してんのか、わかってるか?」
「……わかってます。でも、もうこれしか無いじゃないですか。私が先輩と同じ時に経験できること」
プツプツ、と白いワイシャツのボタンが外され、鹿島のほんのり赤みを帯びた肌が見える。
ちらりと見えた下着にカッとなる。
「馬鹿野郎……ッ」
弾みをつけて起き上がり、ボタンの外れたワイシャツを掴んで、一気に引き寄せる。
唇が触れそうなほど近い距離で手を止めた。
「……言ってねえだろ」
「え……?」
鹿島がビクッと体を揺らした。
堀は、思い切りをつけるように小さく深呼吸した。
「まだ俺がお前を好きだってこと、言ってねえだろうが」
鹿島が息を飲んだのを見て、堀は押し付けるように口づけた。
今更だなんてわかっている。
危うい関係の中で侵さなかったこの一線を超えるのには、はっきりとした言葉が必要だと思った。
「……もう、知ってます」
そう言った鹿島の顔は、王子でもヒロインでもなく、たった一人の愛しい女の子だった。
「ばーか」
照れ隠しに悪態をつくと、やっと鹿島が笑った。
泣いているより、やっぱりそういう顔のほうが好きだなんて、頭の端で考える。
「っていうか、本気でヤる気か? どう考えてもすぐに見回りが来るだろ。校門だって閉まっちまうし」
「そりゃ、やりますよ! 今日中に! ガツッと!」
「だから、フツーに考えて学校じゃ無……」
言い終わるより先に、堀の唇に鹿島のキスが降る。
「……ほんと、馬鹿野郎だな」
堀もそれに答えた。

「っ……!」
鹿島の首筋にそっと唇を這わせる。
たったこれだけで、鹿島の体は大きくしなる。
机に腰掛けた自分の上に向かい合うように彼女を座らせ、堀はそのスカートから伸びる足にも手を滑らせた。
「先輩……ッ」
戸惑う口を再び自分の唇で塞ぎ、太腿から膝に掛けてを撫でる。
微かな鳥肌が手のひらを掠めて、胸の奥が熱くなる。
「んふっ……んんっ……!」
さっきまでどうしていいかわからないという動きをしていたはずの舌は今、ぎこちなく堀の舌に応じる。
その動作がどうにもむず痒くて可愛らしくて、つい息をつくのも忘れてしまう。
腰に回していた手を、探り回って彼女の胸へと移動させる。
手のひらに収まるほどの慎ましやかな大きさだったが、それでも堀を刺激させるのには十分だった。
「んっ……!」
それを少しずりあげると、すぐに小さな突起が手に触れた。
キュッと摘むと、ついに鹿島の唇が堀から離れた。
「んあっ!」
想像以上の官能的な声に背筋がゾクゾクする。
溜まらなくて、彼女の胸を揉みしだいた。
「堀……せんぱ、それ、やば……っ」
鹿島が顔を堀の肩に埋める。
熱い吐息が混ざる。
「お前、もう少し声抑えろ」
「出ちゃう、んです、んんっ」
鹿島の声に自分の理性も吹っ飛びそうになる。
「……だったらこのままキスしてろ」
そう言って彼女の唇に軽く歯を立てた。
────ガララッ
扉の開く音に、堀と鹿島はお互いに身を竦めた。
反射的に入り口を見たが、閉じたままだ。
どうやら、近くの教室から響いてきたらしい。
「……っ、来い。鹿島」
「えっ、先輩!?」
堀は鹿島を脇に抱えて机を飛び降りると、辺りを見渡して身を隠しやすそうな教卓の下へと入り込んだ。
ゴンッと鹿島の頭が教卓の縁にヒットする。
「痛っ!」
「ばか、静かにしろ」
ふてくされる鹿島を隣に座らせ、周りに気を配る。
どこからか、扉を締める音が聞こえてきた。
間もなくこの教室にもやってくるだろう。
程なくして足音が近づき、扉が開かれると、二人は体を小さくして身を寄せ合った。
懐中電灯の灯りが教室のそこかしこを照らす。
呼吸音すら出すのを躊躇って息を止める。
ふと隣を見ると同じように口を一文字にする鹿島が居た。
「────!?!?」
堀は、鹿島の顎に手を添えてこちらを向かせると、そのまま口づけた。
困惑しているだろう鹿島の顔を想像すると、笑みが零れそうになる。
息をつくその間を目がけて、彼女の口に下を押し入れた。
くちゅくちゅと微かに鳴る水音が、いつバレるかとドキドキする感情を一層激しくさせた。
光の筋が教室中をグルリと巡って、再び扉が閉められる。
一応少し機を伺い、人の気配がしなくなった頃、ようやく堀は鹿島から身を離した。
「バ、バレるかと思った……」
肩で息をしながら、鹿島がほっと胸を撫で下ろす。
「お前がそれでもいいからガツッと行きたいって言ったんだろう・が!」
「わっ!」
鹿島の体を掴んで、教壇の上に押し倒した。
改めてマジマジと見れば見るほど、バレたらただではすまないだろうな、と実感させられる。
はだけたワイシャツ、上気した肌、そして乱れた脚。
あの整った鹿島をこんなにしたのが自分だと思うと、言いようのない興奮に襲われる。
「わっ、やだっ、そんなトコ……!」
鹿島の制止をあしらって、堀は鹿島の足の付根に口づけた。
腿の内側にぼんやりと赤い跡が残る。
「綺麗だな、鹿島」
「へ……」
突然の賛辞に呆気にとられた鹿島をよそに、堀は鹿島の両足をまとめて持ち上げた。
「やだ、ちょ、先輩!?」
長く伸びた脚のラインが、堀の目を釘付けにする。
その麓には、水色の彼女らしい下着がじんわりと湿っていた。
下着の上から、人差し指で撫でる。
それだけで、どれだけ濡れているのかがわかる。
「すっげえ濡れんのな、ココ」
かあっと赤くなる鹿島が可愛い。
一際ぷっくりとした膨らみが指の腹に触れる。
堀はそこを円を描くように擦った。
「うっ、あっ、んんんっ!」
今までにないくらい、鹿島の体が震えた。
堀はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「気持良いのか、鹿島」
下着をズラして、その蜜壺に指を差し入れる。
「あっ、んんっ、やっ……」
指の周囲を柔らかな熱が包む。
何度か出し入れすれば、彼女の艶やかな喘ぎ声が漏れた。
すがるような目で鹿島がこちらを見る。
その表情はとてつもなく淫靡で、堀を攻め立てた。
「つってもそう都合よくゴムも持ってねえしな」
なんて、ぎりぎりの理性を口にする。
すると鹿島はスカートのポケットを弄ると、手にしたものを堀に無言で差し出した。
「……鹿島、都合良すぎ」
よくよく考えれば、始めからずっとその気だったな、こいつは。
そんなこと、後から思い出した。

「っ、はっ、鹿島……ッ、力、抜け……!」
「む、無理……です……っ!」
物覚えの良かったことが幸いして、堀は難なく自身に避妊具を装着した。
なんとか鹿島の中に全てを押し込むまでどれほどの時間がかかっただろう。
けれど、その締め付けはこれまでに経験したことのないほどの快感だ。
「ハァ……鹿島、動くぞ……」
堀の声に鹿島はこくこくと頷いて目を閉じた。
堀はゆっくり腰を引くと、鹿島に打ち付けた。
「っあ、ああっ……!」
「っ、痛いか、鹿島? 大丈夫か?」
慌てて問うと、目に涙を溜めたまま鹿島が笑った。
「いつもの先輩に比べたら、全然痛くないです」
「……、お前は」
思わず自分の顔にも笑みが溢れた。
彼女の好意に気づいていながら、それに応えることを拒否していた。
応えてしまえばのめり込むことはわかっていた。
一目見て惚れ込んだその顔、屈託のない表情。
「ふあっ、やっ、あ、ああっ、んんっ、あっ……!」
いつだって危なっかしくて、勝手なことをして、世話を焼かせて。
自分が見ていなければ、せっかく捕らえた鳥に逃げられてしまうのではと不安になって。
「やっ、せんぱっ、い……堀、せんぱ……ッ」
だから今も、お前の傍から離れられないでいる。
つかまえた美しい鳥を、もっと華麗にはばたかせたくて。
「かし……っ、ま……!」
けれど、とらえられているのは一体どちらなのだろう。

「……十二時、過ぎちゃいましたね」
「ああ、過ぎちまったな」
身支度を整え、二人は教壇に座って身を寄せた。
月明かりが照らした教室は、いつもと違った様相を見せる。
「あーあ。せっかく堀ちゃん先輩と同い年だったのに」
そう言って伸びをする鹿島は、普段と同じ彼女だ。
「また一年経てば同じになるぞ、それまで待っとけ」
適当に返すと、鹿島は目をパチクリさせてこちらを見やる。
「いいんですか、待ってて。……っていうか、一年後も先輩と一緒にいて!」
「……それだけのことをしたじゃねーか、今更だ」
その言葉を聞いて、鹿島は嬉しそうに立ち上がってはしゃいだ。
堀はそんな彼女の様子を見て、そっと安堵した。

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