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君が見せたヒカリ【巽 完二×白鐘直斗】

「先輩、ちょっと待ってくれねーッスか」
完二の言葉に、秘密結社改造ラボを進む自称特別捜査隊の面々が立ち止まった。
「どうした、完二」
「…………」
鳴上の問いに答えず、完二はくるりと直斗へ向き直る。
そしてツカツカと近づいて、彼女の腕を掴んだ。
「えっ!」
直斗は驚いて完二を見上げる。
しかし完二の視線は既に、直斗ではなく他の仲間へと向けられていた。
「ちょっとオレと直斗、今日は抜けるッス」
「えっ! どうしてこんな突然!?」
陽介が声を裏返らんばかりに張り上げた。
「なんですっと!? カンジィ、ナオちゃんをどこへ連れてこうとしてるクマ? クマに黙っての愛のドキラブ逃避行は許さんクマよ! いや、クマに言っても許さんク……」
「それは……あ、あーでこーでそーだから抜けるッス!!」
「無視クマ!?」
「あーでこーでそーって……理由になってないじゃない。完二君らしくないな、どしたの?」
「チエちゃんも!?」
クマの悲痛な叫びがこだまする。
直斗が完二の顔色を伺いながら口を開いた。
「あ、あの……巽くん。僕は抜ける気ないのですが」
「ナオちゃんまで! ヨヨヨ……みんなクマに冷たいクマ……」
「ク・マ!! 話が進まねえからちょっと黙ってろ!」
「ヨヨヨヨヨ……ヨースケ~……」
ゴホンッと、鳴上が咳払いをする。
「まあ、いいんじゃないか。何か考えがあるんだろう。意味もなく途中で抜けるなんてことを、完二はしないしな」
「ちょっと府に落ちないけど……まあ、それもそうだしね。抜け出して直斗くんとナイショのデート! なんて、完二にできっこないし」
りせの言葉に、完二の顔はかぁっと赤くなった。
「なっ!? べ、べべべ別にそういうシマヨコな考えはねーぞっ!!」
「……ヨコシマ、ね。鳴上くんが納得したなら、言うことないな。じゃあ、私たちはもう少し先に進むから」
雪子の笑顔を見て、完二は頭を下げる。
「すんません、先輩方! この穴埋めは次にさせて頂くッス!!」
「た、巽くん! あの、僕は!」
直斗の声に耳を貸すことなく、完二はもと来た道を歩き始めた。
だが、彼女の腕から手を離す気はないらしい。
むしろ、さっきよりも力が入っている。
……怒っているのだろうか。
「巽くん!」
仲間が見えなくなったところで、直斗が声を上げるとやっと完二が立ち止まる。
そしてすぐに、直斗を強い力で壁へと押し付けた。
「ッ━━━」
ガシャンッと、足下に張られた金網が音を立てる。
掴まれていた右腕は、頭上に同じく押し付けられていて、身動きを取ることができない。
咄嗟に瞑ってしまったまぶたを開けると、完二が眉間にしわを寄せて自分を見つめていた。
息づかいが伝わるほどの距離。
色の入った彼らしい特殊なメガネの奥の瞳は、彼の感情を色濃く訴えているように思えた。
「……いつからだ」
「え……?」
「調子ワリイのはいつからだって聞いてんだ」
「…………!」
直斗の胸がドクンッとひと際大きな音を立てる。
気づかれていた……?
「…………6限が終わってすぐからです」
「なんでココ入る前に言わねえ」
「言う必要はないと思っていました。現に普段通りに動けています」
「……、馬鹿野郎ッ」
完二の右手が上がる。迫る衝撃を予想して、直斗は再び目を閉じた。
……と。
「…………!?」
ヒヤリと額に冷たい感触。
しばしして、それが完二の手のひらだと気づいた。
「あんじゃねえかよ、熱。何が普段通りだ」
再度目を開けば、彼の顔にはもう怒りの感情は残っていなかった。
また手を引かれる。
今度はそれほど強い力ではない。
出口に向かう完二のあとに直斗は続いた。
「……気がついていたんですね」
「ああ。ついさっきだがな」
そして、戦闘が終わってすぐに皆に声をかけてくれたんだろう。
「あの……」
謝ろうと顔を上げる。
けれど。
「気ィ使い過ぎなんじゃねえのか」
完二の言葉に不意をつかれる。
「ちったぁ頼れ」
それきり完二は口を閉ざす。
その後の道程は気持ちも体も重かった。

「……散らかっててワリイな」
「……いえ」
今日は祖父も秘書もいないことを告げると、完二はまたどこかイライラした様子で直斗を自分の家へと招き入れた。
散らかっている、とは言われたものの、彼の部屋は雑然としているようには見えない。
畳の床には、不必要なものは置かれていないし、机の上の編みかけのあみぐるみも道具も含めきちんと整えてある。
彼らしい部屋だった。
「あの、服……貸していただいてありがとうございます」
「……いや。制服のままじゃ困るだろ」
2階にある完二の部屋に通されてすぐ渡された、胸になじみのあるドクロマークが描かれた完二の長袖シャツとスウェットズボン。
帰宅途中でジュネスで買い揃えた食料を彼が1階にある冷蔵庫へ突っ込んでいる間に、いそいそと着替えた。
余った袖や裾に少しのジェラシーを感じながらも、彼のにおいにドキッとした。
「んじゃ、なんかテキトーに作ってくるからよ。その……ベッド使っていいからよ」
「あっ……う……うん」
完二が階段を駆け下りていく。
彼の部屋、彼のベッド。
成り行きのまま上がり込んでしまったが、ここへ来た時点で予想できたことだった。
なのにどうして。自分に問いかけるが答えは出てこない。
「っ……」
頭に鈍い痛みが走る。戸惑いはあるが、横になったほうが良いかもしれない。
ゆっくりと立ち上がる、と。
「う……っ」
目の前が揺らいで、そのままベッドに倒れ込んだ。
体が熱い。
……こんなに弱っていたのか。
ずっと張っていた気が緩んだのかもしれない。
『気ィ使い過ぎなんじゃねえのか』
先ほど完二に言われた言葉が頭の中で反響する。
……そうだ、僕はずっと。
『ちったぁ頼れ』
……仲間と言いながら。
熱が体を浸食していく。手も、足も、頭すら自由が利かなくなっていく。
視界が狭まっていく。
『馬鹿野郎ッ』

━━━━本当に、馬鹿だ。

「……斗、直斗」
呼ばれる声に目を覚ます。
誰かが覗き込んでいる。逆光でよく見えない。
「起きれるか?」
「たつ……み、くん……?」
なんだかまだぼうっとしている。
ゆっくりと記憶を辿っていく。
……そうだ、彼にお世話になったんだっけ。
体が暖かい。
気づけば、布団をかけられている。
先ほどまで熱を放つばかりだった額にはひんやりとしたものが貼付けられている。
熱冷ましのシートのようだ。
「あんま食べたくねえかもしれねえが、薬を飲ませてえからな」
そう言う完二の手には玉子粥の乗った盆があった。
いいにおいが鼻を霞める。
完二はどっかりと、ベッドの脇に胡座をかいて座り込んだ。
「すみません、いろいろ……」
「気にすんな、んなこと」
完二は湯気の上った粥をレンゲでかき混ぜた。
そして、それをすくって。
「ふぅ、ふぅ……と。っし。口を開けろ」
「はい」
彼のほうへ顔を寄せて、言われた通りにする。
と。
「んあっ、ちょっ。ちょっと待て!」
「…………はい?」
怪訝な顔して彼を見ると、自分から視線を反らして頬を染めていた。
「巽くん……? …………。…………あっ!」
10秒ほど考えて、やっと直斗は彼と同じ境地に至る。
体温がこれまで以上になりそうなほど、心臓がバクバクいっている。
「じ、自分でやった、ほうがいい……いいよな!? あーっと、すまねえ、えっと……」
━━ちったぁ頼れ。
あの時の完二が再びフラッシュバックする。
1人でなんとかしようと思い続けていた自分。
それは、ずっと1人だったから。そうあるべきだと思い続けていたから。
けれど、もう自分には。
「……して……もらえます……か?」
「あ?」
「あーん……してもらえますか?」
仲間がいる。
「お…………おう」
完二は一瞬戸惑いながら、もう一度直斗へレンゲを差し出す。
それは、小さな直斗の口へと。
「んっ…………」
ゆっくりとした動作で、直斗は頬張った。
玉子が柔らかなごはんと絡み合い、優しい風味が口の中いっぱいに広がる。
「おいしい……これ、巽くんが?」
「あぁ。お前の口に合ってよかったぜ」
「ふふ。巽くんはいいお嫁さんになりますよ」
「な!? なな、何言ってんだ! ったく……もう少し食うか?」
「うん。お願いします」
ゆっくりと時が流れていく。
なんだか暖かくて幸せな時間。
直斗は心地よさを感じていた。
その穏やかなひとときに。

「……寝たか」
直斗の規則正しい寝息を聞いて、完二は安堵の息を吐いた。
熱も落ち着いたようだ。これならぐっすり眠れるだろう。
照明の紐を引っぱり、電気を落とす。
「……わかってんだよ、てめえが背伸びしてることぐらい」
自分もそうだから。痛いほど良くわかる。
「直斗……」
カーテンの隙間からこぼれる月の光が、直斗の顔を照らす。
彼女の頬に触れようと手を伸ばそうとして、思いとどまった。
ふと、先ほどの直斗の言葉を思い出して苦笑する。
「オレが嫁になってどーすんだよ。……お前がオレの……」
言いかけて、畳の上に寝そべった。

「……“嫁になってくれ”なんて、いくらなんでも飛ばし過ぎじゃねーか」

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