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終息の向こうにあった筈の何か【ラオリン】

 ■この作品はゼノブレイドクロス第12章までのネタバレを大いに含みます。未プレイの方はご注意ください。
 ■ラオがBLADEによる措置で脚を動かせなくなる描写があります。何でも許せる方のみお読みください。
 
 ■アバター ※ほぼ登場しません。
  ガイ(関西弁) 性別:男 所属:アヴァランチ
  普段は調子のいい明るい男だが、仲間が何より大切で、彼らのためならどんな無茶も買って出る。
  いつも黒のタンクトップ姿でミラを走り回っており、BLADEの一部には野生児と呼ばれているとかいないとか。

 
 
 1.帰還
 
 
 目を開けると空が広がっていた。
 重くて動かないB.B(身体)には波が打ち寄せている。
 天国でも地獄でも、懐かしい故郷でもない。
 大切なものをすべて失ってたどり着いた、忌まわしい惑星だった。
 ……ああ、自分はまたここへ還ってきた。
 この惑星で起きた全てが、故郷で起きたこと全てが、長い長い夢であって欲しかった。
 そして、自分の奥にはまだアイツが――眠っている。
 
 
 もう一度目が覚めたとき、ラオの視界に入ったのは少しくすんだ天井だった。
 頬を穏やかな風が掠めていく。視線を動かすと開け放たれた小さな窓にカーテンがはためいている。
 二度、三度瞬きして長く息を吐く。何となく手に力を入れた。
 ……動いている。
 顔の前まで手を掲げ、平を甲をと交互に見比べて拳を握った。
 
「誰がこんな……」
 
 あれほど重かったB.Bの身体が、以前のように馴染んでいる。
 ここはNLAなのだろうか。どこかのチームが自分を回収し、メンテナンスを施したというのか。そのまま打ち捨てられても、再起不能なまでに息の根を止めてもおかしくない自分を。いや、回収したのは異星人という可能性も少なくはない。
 
「ッ……!」
 
 辺りの様子を確認しようと身体を半分起き上がらせてラオは違和感に顔を歪めた。上半身とは違い、下半身にほとんど力が入らない。
 
 (……どういうことだ?)
 
 視線だけを泳がせて、ラオは周囲を流し見た。手狭な部屋には、今自身が身を預けているベッドとその脇のサイドテーブルだけが配置されていた。装飾の少ない、至ってシンプルな組み合わせだが、ラオにとっては悪くない配置だ。異星人のセンスではないのは明白だった。
 部屋の持ち主に好感を抱き始めた頃、不意に部屋の外から小さな足音が聞こえてきた。それはどうやらこちらに近づいてくるようだった。
 
「ッ……!」
 
 好感を抱いたとは言え、正体のわからない相手に思わず身構える。ベッドの上で息を潜めていると、勢い良く開いたドアからゴムまりが飛び出した。
 
「なッ!?」
 
 そのゴムまりは床をてんてんと転がると、形を大きく変えて一層大きく跳ね上がった。
 
「お前……ッ! タツか!?」
 
 ゴムまりと思った物体は、翼を腕のように広げ、パタパタとベッドの高さ程に浮き上がる。クルリと巻いた独特の前髪とグルグルメガネの特徴的なその姿はノポン人の少年に間違いない。
 
「タツのこと呼んだですも? ……って、おまえ! 起きてるですも! リンさん、ラオさん起きてるですもー」
 
 タツは声を張り上げると、また嵐のように部屋の外へと飛び出していった。
 
「相変わらず、忙しない奴だな」
 
 薄く笑って、ラオはほんの少し警戒を解いた。タツが居る。そしてリンも居るならここはNLAにいないだろう。自分は此処に戻ってきたのだ。二度と踏み入れないつもりでいたこの場所へ。
 感傷に浸る間もなく、また誰かがこちらへ向かってくる足音がする。時折、何かにぶつかりながら駆けてくるのはきっと――。
 
「ラオさん!!」
 
 赤く腫れ上がり、涙を湛えた大きな瞳。肩より上に切り揃えられた髪が行儀よく揃って揺れている。
 その声を、姿を、表情を見てラオはようやく安堵した。彼女は、リンリー・クーだ。
 
「よう、リン。……久しぶりだな」
 
 何を口に出したら良いか見当がつかず、当たり障りのない言葉を選ぶ。一方の彼女は嗚咽を噛みしめるように無言で大きく二度頷くと、ベッドに横たわるラオのもとに駆け寄り、縋るように抱きついた。
 
「おいっ……」
「よかっ……、よかった、です! ラオさんが……ラオさんが無事で居てくれて」
 
 彼女の顔が押し付けられた胸のあたりがじわじわと濡れていくのを感じる。自分たちはB.Bで、本当の身体ではないはずなのに、まるで生身で接しているかのように心が揺れた。
 あんな、取り返しのつかないことを仕出かした自分のために、涙を流してくれる人間が居てくれたなど。
 声を上げて泣くその姿を見て、ラオは彼女がまだ十三歳であったことを思い出した。
 大人顔負けの高い技術と立ち回りで、BLADE(ブレイド)をリードするエルマチームの戦力として、さらに優秀なメカニックとして活躍しているとはいっても、彼女はまだあどけない少女だ。
 自分と同じ色をした、艶めいた黒い髪をそっと撫でる。今はもう遠い昔、娘が泣きじゃくるといつもこうしていた事を思い出した。
 心地よい温もりと再会して、思い出さなくても良いことばかり脳裏によぎる。

「そう言ってくれるのは、きっと君だけだろうな」
「なんでそういうこと言うんですか! エルマさんもガイさんも、みんなッ、みんな心配してたんですからっ!」
 
 今まで泣きじゃくっていた顔を上げて、眉を細めるリンにラオは小さく、そうかと呟いた。
 アイツならそうだろうなとラオは思った。
 異星人と融合してバケモノになった自分を仕留めてくれた男。最期の最期でよくあんなとんでもな
 い役回りを受けてくれたものだ。……結局こうして地獄から這い上がって来てしまったが。
 
「……ごめんなさい。私、ラオさんのB.Bの具合を見なきゃダメなのに」
 
 まだボロボロと溢れる涙を手の甲で拭って、リンは通信端末を取り出すと、いつも仲間にそうするようにラオの体をチェックし始めた。
 リンやガイは別として、エルマやヴァンダム、それにモーリスは当然ながらナギまでも自分を強く警戒しているに違いない。恐らく、長い間戦友として闘ったダグもだ。
 現に今も自分ではない別の禍々しい意識が精神の奥底で眠っている。そんな自分が拘束されることなく、この場所にいることに強い違和感があった。
 
「リン、俺は……」
「ああっ、動かないでください! もう少しで終わりますから」
 
 制されてラオは言い淀んだ。リンは自分よりも一回りも小さい手で器用に端末を動かしていく。
 
「……よし、今のところ異常ありません。これまでどれくらいの時間、どんな場所にラオさんが居たのかわからなくて、何の影響でどれほどの損傷が出ているのかまだはっきりしていないんです。だから、何か変な感じがしたらすぐに言ってくださいね」
 
 リンはそう述べた後、「あっ」と息を吸い込んで、表情を暗くした。

「その、脚は……ごめんなさい。どうしても万全にする許可が降りなくて、今は動かないようにしているんです。でも私、なんとかみんなを説得しますから!」
 (なるほどな……)
 
 人類に危害を与える可能性がある自分を上層部が放っておくわけがない。
 乾きかけた涙を。再び瞳に貯め始めたリンの髪を頬を撫でた。
 
「別に君が気に病む必要はないさ。ここで生きる人間を護る為に必要なことだ」
「でも、ラオさんだって、私たちを護ろうとしてくれたのに……ッ」
「リン……」
 
 この娘はどうしてここまで真っ直ぐに自分を見てくれるのだろう。
 最後の最後まで、自分を信じ続けてくれるのだろう。
 彼女の後ろ髪まで手を滑らせて、その小さな頭をそっと自分の胸へと押し当てた。リンは何の躊躇いもなくラオに身を預けた。その姿にラオは小さく、「ごめんな」と呟いた。
 リンはラオの腕の中で顔を左右に振ると、嗚咽を噛み殺しながら頬を濡らした。
 
 
 
「すみません、何だかいっぱい泣いちゃった」
 
 ようやくリンの笑顔が見られたのは、空が夕焼けに染まった頃だった。
 
「いや。俺がそうさせたんだ。すまなかったな」
 
 口元に微かな笑みを浮かべて、リンは頭を振った。
 
「……リンさん、もう大丈夫ですも?」
 
 扉が小さく開いて、この家のもうひとりの住人がおずおずと顔を出す。そんな柄ではないだろうに、部屋の外でずっと押し黙り、ラオとリンを邪魔しないようにしていたらしかった。
 
「うん、もう大丈夫! ありがとね、タツ」
「よかったですも! リンさんの笑顔がタツ、一番嬉しいですも」
 
 頭の羽を大きく広げて、タツは心底嬉しそうに飛び上がった。彼を抱き上げるとリンは再びラオに向き直る。
 
「えっと……本当はラオさんの目が覚めたらすぐって言われてたんですけど、今からエルマさんに会ってくれませんか? ラオさんに伝えなきゃいけないことがあるって」
 
 また哀しそうな顔をする。ラオは心配かけまいと笑みを作った。
 
「……いいさ。エルマはここに来てくれるのか?」
「はい、今は多分ブレイドホームに居るはずです」
 
 タツを抱えたまま、ベッドの脇に放り出していた通信端末を手に取るとリンはすぐにエルマへと繋げた。
 エルマの伝えたいことが、明るい話題ではないことは分かりきっている。
 自分が死ぬのが皆にとって最善だと、己自身でも思う。だから、どんな話であっても受け入れるつもりだ。
 しかし、そうならまたリンは哀しむだろうか。
 
「……はい、それじゃあよろしくお願いします」
 
 そう言って通信を切ると、リンは小さく息を吐いた。
 
「すぐに向かってくれるみたいです。少し待っててくださいね」
「ああ」
 
 頷いてラオはその身をベッドに横たえた。リンはサイドテーブルに添えてあった椅子をこちらに寄せるとそこに腰を下ろす。
 暫しの沈黙が訪れた。タツですら、リンの腕の中でユラユラ揺れて言葉を探している。少し息苦しい空気に身を委ねるうち、ようやく家の呼び鈴が鳴り響いた。
 
「おっ、お迎えしてきます! 行くよ、タツ!」
 
 緊張しているのか、リンが上擦った声を上げて立ち上がった。彼女の後ろ姿に寂しさを覚える。ここからはきっと、穏やかな気持ちではいられまい。
 
「……入ってくれ」
 
 扉を叩く小さな音に、そう返す。開いたドアの向こうに立っていたのは、褐色の肌に銀髪の見知った軍人の姿だった。
 
「久しぶりね、ラオ」
「そうだな。……いろいろ迷惑をかけた」
 
 笑ったのか、困ったのかどちらとも知れない表情をして、エルマは先程までリンが座っていた椅子に腰掛けた。そのリンは席を外すことを選択したらしく、部屋に入ってくる様子はない。
 
「まだその姿をしているんだな」
「ええ、NLA(ここ)ではこちらの方が動きやすいもの」
 
 少しばかりの嫌味を難なくいなすと、エルマがラオを見つめた。リンとは違う、冷たい瞳だ。だが、BLADEとしてはそれが正しい。
 
「エルマ、なぜお前たちは俺を生かしている。しかもNLAの中でだ」
「――そうね。上層部では貴方を生かすことに異を唱える声が殆どよ。ましてやNLAの中で生活させるなんて危険過ぎると」
「当然だな」
 
 自嘲すると、エルマは目を閉じた。
 
「それをリンが説き伏せたのよ。自分の家に住ませて、自分が貴方の様子を見るからってね」
「……アイツ……そこまで」
 
 グロウスへと裏切ったと告げた時も、セントライフでの時も……そして今も。リンが自分を信じ続けてくれる理由は何なのだろう。
 ラオ自身、リンを娘と重ねている部分もある。それでも。
 
「リンに感謝することね。でも、私たちが警戒を解いたわけでは無いわ。だから申し訳ないけれど、貴方の脚は動かないままにしてある。それにこの家も……リンには伝えていないけど、監視対象として常にBLADEの誰かが外から見張るようになっているわ」
「その対応は理解できる。だが、なぜそれを俺に話した?」
「リン(あの子)を悲しませて欲しくはないから」
 
 エルマは、こう言えばラオが無闇な行動をしないと確信している。図星を付かれて思わず笑みがこぼれた。
 
「……わかったよ」
 
 両手を上げて降参のポーズを取る。けれどすぐに向き直った。
 
「『俺の意識』があるうちは抵抗しないさ。お前らに従う。だが、アイツが出てきたら……その時は容赦せずに殺してくれ」
「貴方、やはり……!」
 
 ラオの物言いに察して、エルマは立ち上がると戦闘態勢を取る。彼女が得意とするデュアルガンの銃口がラオの額に向けられた。
 周りの空気が張りつめ、彼女の言う『家も監視対象にしている』ことを肌で実感する。
 
「待ってくれ。今はまだアイツは眠ったままだ。というか、本当に起きるかもはっきりわかっちゃいない」
「そんな曖昧な話、信じろと?」
「俺の口から『信じろ』なんて薄っぺらい言葉、言えると思うか? でもな」
 
 一つ深呼吸する。
 
「俺が俺で或るうちは、リンを裏切るようなことは絶対にしない」
「本当ね?」
「……ああ」
 
 --サンプルここまで--
 
 WEBでは読みづらいため、会話文の前後に空行を挿入しています。
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