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密やかな想いは色香に惑う【ジーク×ニア】

 世界が一つになってからもジークは、自分の城へは戻らずサイカと『新しい世界を見て回る』旅を続けていた。そこに、かつての仲間だったニアとビャッコも加わり、気がつけばこのメンバーで長い時を共にしている。
 ずっと以前から『そうじゃない』と思い込もうとしていた感情は、いつしか誤魔化しようのないほど明確に成長していた。ジークはニアに友人や絆で繋がった仲間以上の想いを抱いていた。
 ジークは知っている。ニアはボン――レックスのことが好きだと言うことを。そして、彼がホムラやヒカリと共に暮らしている風景をレックスのブレイドの一人として、傍で見ていられなくて旅を始めたことを。彼女の逃げた先が、自分の隣ということは嬉しかった。けれど同時に苦しかった。いつか自分が自分を抑えられなくなった時、きっとまた彼女は傷つくのだから。
 ドンッ、ドンッ、とドアをノック……というより、体当たりする音でジークは目を覚ました。窓から注ぐ月明かりが頬を撫でる。部屋の外の何者かの存在と、鬱陶しい弱い光を避けるようにシーツを頭から被った。だが、月明かりは防げても、体当たりの主は諦めてはくれないようだった。
「ジーク様! 起きてください、ジーク様!」
「ちょっと王子! ええ加減起きやー!」
 ……ビャッコとサイカだ。大きく欠伸をしてから立ち上がると、ジークは上半身露わの状態でボリボリと腹を掻きながらドアを開けた。
「どうしたっちゅうねん。他の客に迷惑やろ」
 ジークたちが今留まっているのは、グーラ領にできた新しい街だ。世界自体が新しく創られてからというもの、あちこちで新たな集落が生まれている。そんな、街づくり真っ只中の宿は遠方から来る客で賑わっていた。今は運良く、大きな騒ぎにはなっていないようだったが。
「あわわ、私としたことが……。いえ、でも緊急事態なのです! お嬢様が……」
 ビャッコは険しい顔をして自慢の毛並みを逆立たせた。
「ニアが? そういえばおらへんな。お前ら一緒に寝とったんちゃうんか」
 宿を取るときは基本的に二部屋取るようにしていた。ジークとしては男女分かれて、のつもりが、ビャッコだけ女性たちに受け入れられて、自分だけ一人で部屋を使用している。
「そうなんやけど……うん、見てもらったほうが早いわ」
「お、おい!」
 サイカに腕を掴まれ、ビャッコに先導されて辿り着いたのは二人と一匹の部屋。ドアを開くや否や、今度は強引に背中を押されて室内に放り込まれた。
「つー……っ! 何すんねん、サイカ!」
 室内はジークの部屋と同様、月明かりで満たされていた。立ち上がってベッドに目をやってぎょっとする。白く細い足、裏地の黒い特徴的な衣服、目のやり場に困るほど露出した太ももに、長く薄い毛色の髪。大きな耳はピクピクと小刻みに震えている。
「ニア?」
 彼女のこの姿を見るのは久しぶりだ。だがどうして今、ブレイドに――。
「っ、は……あ……っ……」
 ほの暗い場所のせいか、妙に艶めいて見える。暑苦しそうな吐息、火照った頬、汗の滲む肌。変な気を起こしてしまいそうになる。……いやいや、そんな場合ではない。
「なんやニア、熱でもあんのか――」
「あ、王子……」
「ひゃああんっ!」
 膝をついて彼女の額に手を添えた瞬間、ビクッと体を大きく揺らしてニアが鳴いた。不意打ちしたときの反応ではないもっと別の……。
「発情期なのです」
「んなっ!?」
 ビャッコが後ろからぬっと顔を出し、思わずジークは尻もちをついた。カッカッと靴音を立ててサイカも歩み寄る。
「ビャッコに聞いたんやけどな、グーラの人は稀にこういう症状が出るらしいンよ。進化の過程で無くなっていきつつあるモン、みたいやねんけど」
「はい。お嬢様はグーラ人でありながら、特殊な体ですから……」
「より強く症状が出てしまってるワケやね」
 理屈はわかるが、『発情』とは。いや、はじめにサイカに言われたように見れば何となくわかる。しかし――。
「……で? これを治す方法はあるんかいな」
 ジークの言葉に、ビャッコは視線を落とす。
「通常は一定期間過ぎれば治まるはずです。ですが、その期間が一週間なのかはたまた一カ月なのか、よくわからないのです」
「一週間……、一カ月もありえるんかい。今までそんなケッタイなモン、隠して旅しとったんか」
 ビャッコは「いえ」と大きく頭を振った。
「お嬢様が発情するのはこれが初めてです。ですから、いつまで続くかは皆目検討がつきません」
「……なんちゅうこっちゃ」
 そんな長い間、熱にうなされ続けるなんて。自分だったら地獄でしかない。
 視線の先のニアが仰向けになる。広く開けられた胸元は玉のような汗が張り付き、体の奥の疼きを抑えるかのように膝を擦り合わせている。苦しんでいる彼女を前にしているのに、ムクムクと湧き上がる自分の欲望を鎮めようと長く息を吐いた。
「……一つだけ、この発情を抑える方法があります」
「ホンマか? で、どんな方法や?」
 ビャッコの言葉にジークは彼へと向き直った。彼の大きな瞳はまっすぐジークを見ていた。
「情交を結ぶことです」
「じょう……」
 口が回ることについては誰にも劣らないジークも思わず二の句が継げなかった。一瞬頭の回転も鈍くなる。情交とはいわゆるあれだ、男女が夜を……。
「王子、ちゃんとわかっとるんか? 情交っちゅうんはつまるところセッ……」
「いや、さすがにわかっとるわ! 情交って誰がすんねん。ビャッコやて、そこらへんの馬の骨にニアを差し出したくないやろ」
 条件反射でサイカに突っ込んで、ジークはビャッコに詰め寄り、彼の顔を両手で揺さぶった。そんなことさせられる訳がない。ニアには好きな相手が居て、別の誰かと幸せな相手が居て。それなのに彼女自身は――。
「ですから、ジーク様にお願いしたいと思っております」
「…………ワイやて?」
 性行為をすれば、発情は治まる。それは理解できる。だが、そのニアの相手を自分にと言うビャッコに理解ができなかった。
「……はぁっ、あっ……!」
 熱を帯びたニアの声。長い間一緒に居たのに、聞いたことのない艶声。
「……ニアがどうして旅を始めたか、お前はわかっとんのやろ」
「ええ、ずっと隣りに居ましたから」
 ビャッコはジークから視線を逸らすことなく答えた。
「ほんなら、何でワイの名前が出るんや。おかしいやないか!」
「おかしくなんてありません。ジーク様ならお嬢様を大切にして下さいます」
「お前がそう言うてもニアは……っ!」
 自分の両肩をポンと弾かれた。それはしゃがんだサイカの手だった。
「王子なら……きっとニアも大丈夫やで」
「サイカ……」
 分厚いメガネの向こうの瞳が弧を描く。
 ビャッコはトテトテと部屋の入り口まで戻ると、呆然とするジークに頭を下げた。
「ジーク様、お嬢様をよろしくお願いします」
「ウチらは王子の部屋で待機しとるわ。ほな、何かあったら呼んでなー」
 サイカもビャッコに続き、バタンと扉が閉まってからは、またニアの声と布擦れの音しか聞こえなくなった。好きな女がこんな状態でベッドの上に居て、何も思わないほうがおかしい。彼女の体を心配している。それは心の底からだ。けれど、胸の奥に居る雄の自分もその時を待っている。彼女のことを想えば想うほど、ジレンマに陥る。ニアを傷つけない道は残されていないのだろうか。
 ジークは両手で自分の顔を上下に擦り、小さく呟いた。
「……簡単に言いよってからに」
 ベッドに膝をかけると、大きく軋んだ。体のデカイ自分が載るのだから致し方ない。彼女を跨ぐように組み敷いて、ニアの頬に恐る恐る触れる。
「にゃっ……!」
 ピクンッと体と耳が震えて、うっすらと瞼が開かれた。
「亀、……ちゃ……」
「……すまんな、起こしてもうて。苦しくないか」
「ん……っ、ヘンッ、なの……っ、熱くて……なんか、うずうずして……」
 チリン、と彼女の帯紐についた鈴が鳴る。火照った頬から手を差し入れて、首筋へと滑らせた。ニアは目をぎゅっと瞑って身を震わせる。
「今……楽にしたるで」
「んっ……!」
 チュッと、音を立てて彼女の頬に口づけた。唇はわざと避けた。それは本当に好きな相手とすればいい。そもそも最後までする必要なんてない。快楽を得ればそれで十分落ち着くだろう。だから決して最後まではしない。正気に戻って嫌われたとしても、彼女の体は綺麗なままだ。せめて、それだけは。
「あっ、はぁっ、あっ、ジー……、ク……ッ!」
 彼女が身を捩って顔を背ければそちらの頬を、首筋を、鎖骨を、そしてコアクリスタルにキスをして、細い肩を揉み擦るように撫で下ろしていく。これまでの身じろぎで結び目が緩んでいたのか、両腕の装いは簡単に解かれた。
 ジークの唇が、手が触れたそれだけで、ニアは過敏に反応する。赤みを帯びた白い肌。普段のニアとは違う、大人の女を感じてジークは小さく身震いをした。
「あっ、やだぁっ……! どこ、手、入れ……ッ、んにゃっ!」
 手を伸ばした先は彼女の胸元だ。頼りない衣裳の下で、そっとジークは彼女の小ぶりの胸を弄った。抵抗するように、ジークの腕を掴んだ小さな手。普段ならはっ倒されるだろうに、今は弱々しく震えている。拒みたくてもそうする気力すらないのだろう。
「……これは好きな男の手や。ここに居るんもワイやない。お前の好きな男や。そう思っとけ」
「っ……!」
 空いた手を伸ばし、大きく目を見開いた彼女の長い髪の毛に指を絡めて口づけた。こうすることを一度も想像しなかった訳ではない。想像して虚しさだけが残るのが心底嫌だった。現実になってさえも、恐らく残るのは虚しさなのだろう。
「っああッ、や……ッ!」
 指の腹が辿り着いたのは、ニアの胸の先にある蕾だ。ころころと転がせば、その分甘い声が漏れる。衣裳の胸元を下げると今度は悲鳴に近い喘声。罪悪感はよぎるが見ないふりをした。成長途中の膨らみにポツリと赤が小刻みに揺れている。
「やめっ、ああんっ、あっ……!」
 舌を円を描くようにして滑らせた。ニアの体が仰け反るように跳ねる。勝ち気な顔が快楽に溺れてトロンと溶けている。少女を女へと変えている。手と舌で二つの胸を同時に攻めれば、更に艶めいた声でニアは鳴いた。
 力が入ってこすりつけ合う膝をなだめるように、胸を弄んだ手を腰へ、太ももへと移動させ撫で上げる。ニ、三度そうしてから、今度は彼女の秘部へと手を進めた。
「っ! そこっ……はっ、ダメだって……っ!」
 気づいたニアがふるふると首を振る。遮るように伸ばされた細い腕を掴んで、彼女を見つめた。
「ホンマか? そないダメっちゅー風には見えへんけどな」
「ふあっ、あああッ!」
 少しだけいたずら心を出して指でその場所を軽く押す。布地が湿ってうっすらと肌が透け、ぐじゅぐじゅと恥ずかしい音を立てた。真っ赤な顔を一層赤くしてニアは体を浮き上がらせた。それを見て、愚息が一気に硬くなるのを感じる。
 頭でどれだけ理性的に処理しようとしても体は言うことを効かない。それでも何とか息を吐いて自分を押し留めた。ニアの敏感な場所から匂い立つ甘い香りにほだされそうになる。メスがオスを自らの匂いで誘うように自分もニアの身体に誘われている。
(……ホンマもんの阿呆やな、ワイも)
 柔らかな膨らみに口づけて、ジークは体を起こすとニアの両足を担ぐように広げた。
「だっ、ダメだよぅ、そんな、見ないでぇ……ッ!」
「しっかり見んと可愛がれへんやろ。ずーっとココが切なかったんやろ、ニア」
「ううっ……」
 恥ずかしさからかニアは両腕をクロスさせるようにして顔を隠す。ジークはニアの敏感な場所に纏う白い布地の下に指を入れ、つつーっと縁をなぞるように滑らせた。
 そのまま布地を横にずらせば、熱を帯びたニアの大切な部分が露わになる。薄っすらと生えた茂みが外気に揺れている。恐らく誰も見たことのない場所。意識してはいけない優越感がジークの胸にじわじわと支配し始める。
「ふー……っ」
「あ、あああ、あっ」
 息を吹きかければビクビクとまた彼女の体が跳ねた。弛緩した口の端に一本の筋が溢れている。秘部に再び目を落とせば、熟しきった熱が今か今かとその時を待っている。発情したその体は無意識に、彼女の想いと反して、ジークを欲している。
――――くちゅ、じゅるる……
「は、あああ、あ、ああ……っ」
 ジークは自分のグローブを取り外してベッドの傍らに放り投げた。そして両手でニアの大事な場所を広げると、彼女の溢れる愛液を舐め取るように舌を這わせる。頂点にある陰核を舌先で転がし、指で中を刺激する。ぞわりとするような舌の感触に、ニアは何度も背中を反らせて鳴いた。そうする度、蜜は一層溢れ出した。
「アタシ……、も、おかし……ッ、お願いッ、もう……ッ」
「……はぁ、ああ。このまま思いっき、り……」
 ジークの頬にニアの手が触れた。見れば、まさに絶頂を見返そうなニアが体を起こして緩んだ顔をこちらに向けている。
「おかしくなるっ、前、に……ぎゅっ……てさせて、亀っ、ちゃ……っ」
「ニア……」
 好きな男だと思えと言った筈だったのに。
「……好きなだけしがみついとけ」
「……っ、うんッ」
 ニアの腕が自分の首へと回され、添い寝するように二人でベッドに倒れ込んだ。しっとりと汗ばんだ彼女の肌が同じく熱で火照ったジークの体に張り付いた。ニアの頬が、ジークの頬に擦り付けられる。その仕草に驚いて、また同じように擦り替えした。
「ああっ、あ、ああああっ、あっ」
 ジークの指の動きに呼応して、ニアの声が大きくなっていく。それがビリビリと官能的に頭に響いて、自分も触れられていないのに達してしまいそうだ。
「ニア……イキそうか?」
「イク……ッ、イッちゃうよう、亀ちゃんッ、あっ……おかしく、なっちゃうッ」
 艶めかしい声に、卑猥な言葉。その中で自分を呼ぶ彼女。
(こんなん、勘違いしそうになるわ)
 ニアが自分を受け入れてくれていると。友人以上に好いてくれていると。都合の良い解釈をしてしまいそうになる。……と。
「んんッ……!?」
 呻いたのはジークだった。ニアが自分にキスをしていた。唇が触れるだけの、それでもジークにとっては大きな意味を持つキスを。
「んふっ……ん、んんっ……、ぁ、ああっ」
 唇を重ねたまま、ニアは快感に支配され、すぐに離すとジークの肩に顔を押し付ける。
「あ、ああっ、ああああ――……ッ!」
 ひときわ大きな声を上げたかと思うと、それまでジークにしがみついていた腕の力が抜けた。ジークは指を彼女から引き抜くと、腰から上を起こして、ベッドの上に胡座をかいた。肩で息をするニアは、熱に侵された瞳でジークを見つめている。
「…………大丈夫だよ、亀ちゃん」
「な……なにがや」
 動揺して言葉が一瞬詰まった。ニアの手が、頭上にあるジークの頬に伸ばされて、触れた。
「アタシさ、もうとっくに亀ちゃんのこと……好きになっちゃってるよ」
「……ッ、何言うてんねん。ニアはあんなにボンのこと、……好きやったやないか」
 ニアはジークの頬を力なく撫でると、穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりと呟くように話し始めた。
「レックスのことを嫌いになったとか、そういうんじゃないの。うまく言えないけどさ。……アタシ、ビャッコと一緒にイヤサキ村を出て、また亀ちゃんたちに会ってもう一度旅をして……」
 ニアの体を首もとのコアクリスタルから生まれた光が包み、それが弾けた時にはドライバー姿の彼女がいた。いつもの黄色い特徴的な衣服は背中の下敷きになってはいたが。
「喧嘩したり……、亀ちゃんのせいで殺気立ったヴォルフの巣に落ちたり、ゴゴールの群れに追いかけられたり大変だったけどさ、でも亀ちゃんはいつもアタシを守ってくれてた。……アタシが落ち込まないように……楽しませてくれてた」
「ニア……」
 ニアは照れるのを隠すように、口角を上げた。
「気がついたらさ、アタシってばずっと亀ちゃんのこと考えてるんだよね。亀ちゃんが動きやすいように戦おうとか、こうしたらノッてくれるかなとか、こうやったら亀ちゃんも楽しく思ってくれるかなとか。……それとも、こういう曖昧な感情は好きって言わない?」
 あるのだろうか。こんな都合のいいことが。自分になんて絶対に振り向かないと思っていた想い人が。
「……ボンとワイを重ねとるだけちゃうか」
「うん、それはないね」
「……ッ、ないんかい!」
 ニアのはっきりした物言いにジークは思わず血が騒いで突っ込んだ。ニアはぷっと吹き出してコロコロと笑う。
「レックスと亀ちゃんは全然違うじゃん。重ならないよ。重なるわけなんてない。それだけははっきりしてる」
 もう片方の手を伸ばしたニアを抱き上げた。くっついた肌と肌はまだ火傷しそうなほど温かい。
「……ワイでええんやな。もう一度ボンのほうが良い言うても離せる自信ないで」
「アタシが離さないから安心していいよ」
「……ホンマ、このネコ女……」
 彼女の口元に手を当てて、今度は自分から唇にキスをする。先ほどは味わう余裕などなかった小さく柔らかな唇。
「んっ……」
 閉じたその場所を押し入るように舌を動かす。少しの隙間を見つけると、すぐに中へと進み、彼女のそれと絡めた。ぎこちない動きを愛おしく吸い上げて、舌先で愛撫する。酸素を求める空間すら埋めて、お互いの熱を分かち合う。
 唇を離して、ちゅっともう一度軽く吸い付いて、ジークは額をニアにくっつけた。
「好きやで、ニア」
「……それももうとっくに知ってたよ」
 お互いに笑い合ってまた口づける。深いキスの後、ジークは再びニアをベッドへと押し倒した。
「ところでニア。ものは相談なんやけど……」
「へ? 何……ってえ!!」
 ジークが指差した先にあるのは、今にもはち切れんばかりに主張するボトムスの一部だった。
「こここっ、こんなんどうすんだよ!」
 ジークは腰に巻いたベルトを一本、二本と外し、ベッドの脇へと落とす。ニアは困惑してジークの顔と次第に自由になっていくボトムスを交互に見た。
「……そうなるわな。ワイも無理させたないし、慣れへんことでニアも疲れたやろ。今日のところはゆっくり休……」
「ちょ、ちょ、ちょ! 勝手に相談して、勝手に諦めんな! っていうか、どこに行くんだよ?」
 ベッドを降りようとしたジークの腕をニアが掴む。不安と困惑が入り混じった瞳に少し胸が痛んだ。
「便所や。コイツが落ち着かんと、寝られへんからな」
 そう言って彼女の頭を耳ごと優しく撫でる。それで大人しくなるかと思いきや、腕を握る力は強くなった。
「そ、そそ、それ、どうやって落ち着けるんだよ。あ……アタシにできることなら……するけど?」
「おま……っ、……どうするかわからへんのやろ、ほんなら今急がんでも……」
「あ、アタシは今、亀ちゃんの力になりたいの! ……体がヘンになったの……治してもらったし」
 ジークは少し考えてからニアの視線に合わせるように身をかがめた。木組みのベッドがギイィっと長く軋む。
「ニアがええ、ちゅうんなら……」
 そして、彼女の頭にある耳元へ顔を寄せる。
「お前の中に挿入(い)れたい」
「っ……!」
 半分期待して、半分は断って欲しいと思った。据え膳状態の男の感情と、ニアを大切にしたいと思うジーク個人の想いが交錯する。汚したくないという一方で、全てを自分のものにしたい独り善がりの独占欲がまた燻り始めた。
「…………いいよ」
 頬を染めて視線を泳がせたニアが声を搾り出す。
「ホンマか? それで後悔せえへんか?」
「しない。……亀ちゃんが無理するほうが嫌だし」
「ニア……」
 耳元に口づけると、柔らかな毛並みのそれがピクンと動いた。
 ジークはベルトをあらかた外した後、再度ニアの秘部へと手を伸ばす。「ふぁっ」とニアが声を上げた。会話が出来るほどになったとはいえ、その場所はまだ十分なほど濡れそぼっている。
「お前も無理な時は無理って言うんやで」
 コクン、と彼女が頷いたのを見てジークは自身を取り出した。大きく硬く反り返ったそれは、ニアの蜜壺に劣らず準備万端だ。
「お前のフェロモン、あれは相当ヤバいで。いつまで経ってもコイツが衰える気せえへん」
「フェフェフェ、フェロモン!? そんなのいつ……」
 そうかとは思ったがやはり自覚はないようだ。もし、もっと人の多い場所で発情していたら。一週間、一カ月も発情し続けていたら。考えただけでも背筋が寒くなる。
(宿ン中でホンマ良かったわ)
 そう心の中で笑って、彼女の脚をもう一度広げた。今度は抵抗しなかったものの、視線をそむけた彼女の頬を親指で擦った。
「っ、……はっ……」
 つぷっと先が彼女の中に埋まり、ゆっくりと残りを押し入れる。十分だと思ったがやはりキツイ。ニアも唇を結んで耐えている。口にはしないがきっと辛いのだろう。
「なっ! ちょ、亀っ!? あっ、やあ……ッ」
 頬に触れていた手を下へとおろして、自身を咥えた入り口で震える赤い華を弾くように何度も撫でた。おかげで声は次第に快楽を含んだものになり、彼女の中も大きく口を開けてジークを迎え入れた。
「……動くで」
 はじめは反応を確かめるようにゆっくりと、次第に早めながら腰を打ち付けた。肌と肌が触れるたび、パチュ、パチュと愛液が弾けて散った。自分を包んだニアの秘部は温かく、予想できない締め付けに何度も意識を手放しそうになる。
「はっ、あっ、あっ、亀、ちゃっ、んんッ」
 自分の下で、ずっと恋していた相手が淫らに身を捩り、自分の名前を呼ぶ。彼女のコアクリスタルの光が、成熟しきっていない胸が振動に合わせて上下に揺れる。
「ニア……ッ!」
 夢中で口づけた。角度を変えて何度も何度も。繋がったまま、ニアがジークに抱きついて勢いで反対側に押し倒す。唇を離すと、今度はニアが上になってゆるゆると腰を動かした。ジークの突き上げた振動で切りそろえられた髪がふわり、ふわりとと跳ねた。
「腰ッ、めっちゃ動いてるで、ニアッ」
「わっ、かんないよぉ、勝手にっ、動いちゃう……ッ」
 求めてくれている。汚してしまった。けれど、もっとこうしていたい。
「あっ、あっ、亀ちゃんっ、アタシッ、アタシ……!」
 ニアがブルブルと震えて、ジークの頭を抱え込む。
「ニア……ッ」
 突き上げる間隔を少しずつ狭める。それに合わせてニアは鈴のような声を鳴らした。刺激の波に自分も昂ぶっていくのがわかる。閉じた瞼の裏で星がチカチカと瞬き始めた。
「あ、あああっ、ああああ――ッ」
「っ――……!」
 絶頂を迎える前、すんでのところで取り出したジークの自身はビクビクと痙攣するように震えて、ニアの身体に欲望を吐き出した。

「うまいこといったかなあ、ふたりとも……」
 ジークの部屋へと移動していたサイカはポツリと呟いた。
「……気配を察するにお嬢様の発情はどうやら落ち着いたようですね。それに……寝息が聞こえますから、もう私達も休んで大丈夫でしょう」
 共に待機していたビャッコは耳を研ぎ澄ませた後、ようやく安心したというように体を寝かせて大きな尻尾で抱え込んだ。
「そら良かった! 王子はああ見えて意外と奥手やから心配しとったんよ」
 そう言ってサイカもベッドに身を投げだして伸びをする。
「ええ。ご自分の密かな想いを伝えることなく、ずっとお嬢様を見守って下さいましたからね。……傍から見るとバレバレでしたが」
「そうやねー。過保護すぎて見てるこっちがむず痒くなるわ」
 ニアが落ち着いても戻ってこないあたり、問題なく事を済ませたと判断していいだろう。
「ふわあ……明日は出発が遅なるやろなあ」
 薄っすらと明るくなり始めた空。もう「明日」とは「今日」だったが、ほっとして睡魔が襲ってきたサイカとビャッコには訂正する間も、ツッコむ間も存在していなかった。

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