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1.予想しなかった鼓動
「なに、してるの?」
まもりはパソコンを立ち上げ始めたヒル魔に声をかけた。
横目で見られ、まもりは肩をびくりと震わせる。
むしろその『びくり』は隣にいたセナの方が大きかったかもしれない。
やっぱり声をかけるなんて止せば良かった。
そう、まもりは思った。
必要以上にこの人と関わるなんて、全然良いことじゃない。
だけど、好奇心が勝ってしまっていたのだ。
学校に自分のパソコンを持ってくる人なんて、珍しいから。
もしかしたら、パソコン部の誰かから奪い取ったのかもしれない。
もしくは、貢がせた…とか?
そんな考えは、彼の華麗なキーボード裁きで払拭されたけれど。
「データ、記録してんだよ。王城とか、恋ヶ浜とか」
まもりはキョトンとした顔で彼を見た。
意外にまともなことしてんじゃない。
「……見ても、いい?」
「お好きにドーゾ」
ドーゾ、と言ってくれたところで、彼はパソコン画面をこちらに向けてくれる気はないらしい。
キーボードを未だ叩いているところを中断させるのもなんなので、まもりはヒル魔の後ろに回った。
「すご…」
細部まで徹底的に検証されたデータ。
流れるように打たれていく文字。
こんなの、ヒル魔くんじゃないみたい。
まもりの知るヒル魔と言えば、卑怯で残忍で悪魔。
けれど、この場にいるのは。
「見えるのか、んなとこから」
少し振り返ってヒル魔が言った。
「え、あ。うん」
思わず、声が裏返った。
それはまもりの視線の先が、いつのまにかデータからヒル魔の方へと移っていたから。
彼が、振り返る以前に。
「秋大会が来たら、てめぇにこれをやらせるかもしれなぇからよく見とけ。糞チビじゃとうてい無理だろうからな」
いそいそと着替えていたセナは、声にならない声を上げていた。
声にならない声だったから、まもりには聞こえなかったのだが。
ヒル魔が少し椅子をずらした。
ここに来いと、言っているのだろう。
椅子をもう一つ持ってきてそこにまもりは座った。
細く、長い彼の指先をじっと見つめる。
とくとくと聞こえる、自分の鼓動。
少し、速くなった。
ううん、ひどく激しい。
やだ、なにこれ。
まだ芽生えない、微かな微かな胸の疼き。