ヒル魔くん!ヒル魔くん!

私は何度も貴方を呼んだ。
けれど、私の 腕の中で貴方はどんどん冷たくなっていく。

いや…死なないで…!

何度呼んでも貴方は目を開かない。
私は泣き叫んで貴方を抱きしめる。
いつも私を抱きしめてくれる腕は、動かない。
そうして、そのまま私を置い て貴方は消えた。

ふと目覚めると、そこは彼の部屋のベッド。
先ほどの恐怖が夢だとわかり、安堵する。
額にひどく汗をかき、頬には濡れ た跡がある。
うなされていた。
いや、あんな夢を見てうなされないほう がおかしい。
その夢を思いだし、恐怖感に襲われた。
秒針を刻む時計の 音がそれを更に大きなものにする。
耐えられず隣を見ると、ヒル魔が静かに 寝息をたてていた。
確かめるように彼の胸に手を伸ばし、猫のようにすがり ついた。
動く心臓の音に安心した。

「…どうした。嫌な夢でも見た のか?」

暖かい感触に目を覚ましたヒル魔が、まもりに問う。

「…見たよ。すごく怖い夢だった」

まもりのシャンプーのにおいが、ヒル魔に届いた。

「ヒル魔くんが死んじゃって消えち ゃう夢」
「あぁ?」

寝起きとも相まってヒル魔の機嫌が少し悪くな る。

「てめえの夢ん中で人を勝手に殺すな、糞マ…」
「怖かった。 すごく怖かった」

ヒル魔の言葉を遮ってまもりは言った。
小刻みに 肩がふるえている。
ヒル魔は黙ってまもりの背中に抱きしめるように右手を おいた。
すると嗚咽が聞こえ始める。
ヒル魔はため息をついた。

「俺は今、ちゃんと生きてるじゃねぇか」
「…うん…っ、だから…安心して …」

ヒル魔はそのまま右手をまもりの頭に持っていき、髪を撫でた。
まもりはヒル魔の血の通った暖かい身体に口付けた。
無意識なのか、意識下 でなのか。
どちらにしろヒル魔は目を丸くした。

こいつがこんなこ とするほど『俺』はむごい死に方したのか。

彼女の震える肩に手を置け ば、それはピクリと反応をする。
やっと自分を見たまもりに、ヒル魔は口付 けた。
緩く、深く、自らの存在を裏付けるかのように。
しばらくして唇 を離し、ヒル魔はそれを移動させ、まもりの涙をすくった。

「…俺はま だ死にゃしねえし、てめぇの前から消えてもやらねぇから大人しく寝ろ」
「 うん、ありがとう…」

すぐにまもりの穏やかな寝息が聞こえてきた。
死ぬことはまだないにしても。
まもりの前から居なくなる可能性はないわけ じゃない。

いつか俺がこいつの前から消えるとしたら、こいつはどうす んだ?

夢で泣いてるくらいだ。
実際に起これば、ただですまないこ とをしでかすかもしれない。

「とんでもねえ女」

そう言って笑 い、ヒル魔は目を閉じた。

「嫌がって泣き叫んでも側に居続けてやる」