Not 404

気づけば目で追っている。
そんなこと、ずいぶん前からだ。
労働力、だったはずだ。
いや労働力、だ。
それ以外に何があるのだろう。

「ちっ」

ヒル魔は部室の真ん中に置かれたカジノテーブルに寄りかかると、壁に持たれな がら床に座り込んで眠る彼女を一目した。

「安心仕切った顔で寝てんじゃねぇよ」

一時間ほど前に急に降りだした雨は一層激しさを増し、二人の帰る気力を失せさ せた。
よっぽど疲れていたのか、しばらくして彼女の寝息が聞こえ始め、今はすっかり 寝入ってしまっている。
屋根を破ってしまうのではないかと思ってしまうほどに、二人しかいないその場 所を雨が激しく叩き付けた。

「姉崎」

ポツリと、普段呼ばないその名を呟く。
薄暗い空間の中で、浮き立つような白い肌を眺めた。

今、このまま。

手に入れたいのなら強引に奪ってしまえばいい。
そうしないのはきっと、どうしようもなく自分が彼女を好いてしまっているから だ。
まるで一人前のようにそう思っていることを自嘲し、天井に目を移した。

「理性なんざ邪魔なだけだ」

雨が更に強くなる。
どこからともなくやって来る冷えに、ヒル魔は体を震わせた。
まもりを横目 でちらりと見る。
変わらず、呼吸と共に小さく肩が上下していた。

ヒル魔はガシガシと頭をかき、まもりの傍まで行くと、着ていたブレザーを彼女 にかける。
目線を彼女と同じ高さにするため、しゃがんだ。
手を伸ばして、彼女の頬に触れる。
指先でそっとその場所を撫でた。
それでも、まもりは起きない。

「…信頼されてんのか、どーでもいいのかわかんねえな」

顔を少し傾け、ゆっくり顔を彼女に近付ける。

目を閉じて。
彼女の息遣いを感じて。

頭に響く警告音に再び目を開ける。
間近にある彼女の顔。
あと少し距離を狭めるだけで触れ合う唇を、離した。

「…いつまで持つかわかんねえぞ」

今頃になって、心臓が外からの雨音にも負けないほど大きく脈を打ち始めた。

「…何が労働力だ」

すっかり俺の原動力になってるじゃねぇか。