好きとか嫌いとか。

「ねぇ、ちゃんと言ってよ。好きなの?嫌いなの?」
「え?!えっと…」

テニスコートのフェンス越し。
大胆にも、みんなの居る前で告白をした越前に敬意をはらいたい。

「ねぇ、どっち?」

ハスキーがかった声が聞こえてくる。
バァさんは会議、部長は役員会という絶好な機会に越前は竜崎さんに告白した。
その様子を部員全員が見守る…というか部員全員が呆気に取られた…というか。
俺、桃城武もどちらかと言えば後者のほうでとりあえず目が離せなくなっている。
様子から言えば明らかに両想いなのだが。
しばらくして竜崎さんは答えを出したようで、越前はフェンス越しで彼女の唇にキスをした。
周りから「おぉ~」と言う声と(荒井とエージ先輩の声がでかかった)、大石先輩とタカさんの安堵の息が聞こえた。
よくやるなぁと俺も思いながら、後からどうやってアイツをからかうか、考えを張り巡らせていた。
すると、突然越前がこちらを向いた。
部員一同硬直する。

「やるならこれくらいじゃなきゃね、桃先輩」

………。

突然のことに俺は誰のことだかわからなかった。
只一つわかるのは、部員の視線が越前から俺に移り、ヤツの言葉の意味を知りたいというオーラがにじみ出ていることだけ。
そしてそれは、越前の戦線布告にすぎなかった。

━━━………

数週間前、俺は橘妹に告白した。
橘妹も俺を好きでいてくれたみたいで付き合うことになったのだ。
まだそれを誰にも言ったことはないはずなのに、越前に知られてるのはどういうことだ?!
部活帰り、珍しく一人でチャリをこぎながら俺はそんな事を考えていた。
越前クンは仲良く彼女とお帰りッッ(怒)!
あ”~いいねぇ、全く。
……何考えてんだろうと俺は我に返った。
逢いたければ逢えばいいのに。
アイツに。
………杏に。
俺はチャリを止め、携帯を取りだした。

『会いたい』

只それだけを打ったメールを橘妹に向けて送信させた。
そんなにすぐメールが返ってくる訳がないのに、何度も新着メールを問い合わせる。
問い合わせて3回目、着信音が鳴るか鳴らないかのところでボタンを押す。

『良いよ』

ニコッとした顔の絵文字にハートがくっついた橘妹のメールに俺はほっと安心する。

『これからお前んち行くから』

そう打ち返してチャリを発進させる。
久しぶりに逢う事に胸を躍らせながら。
暗くなりかけた空。
誰も歩いていない静かな道に俺の機嫌の良い鼻歌が響いた。