こいつだけ。

「モモシロくんって浮気するタイプよね?」
「………は?」

休日の俺の部屋。
あどけない顔でとんでもないことを言う杏に、俺はそう返さざるをえなかった。

「だーかーら、浮気しちゃうタイプよね?」
「………いや、何で?」

付き合って数ヶ月。
まだまだラブラブ真っ最中なのに何てこと言ってんだ、こいつは。

「女の子と仲良いでしょ?」
「……まぁ一応は」

杏の瞳がキラキラしているおがげで変な緊張が押し寄せる。

「女の子とか大好きでしょ?」
「……嫌いじゃないけどよ」

すると杏の顔がむっとなる。

「好きじゃないの?」

全く、何が言いたいんだ?

「そりゃあ、男だからな」
「ふうん、そっか」

満足気な表情の杏。
………普通逆の反応を見せるんじゃねぇのか?
いや、彼女として見せるべきだろう。

「何なんだよ、さっきから変な質問してよー」

俺は傍らに座る杏の頬を少しひっぱる。

「だって嬉しいんだもん」
「………?………。………浮気が?」

ちょっと考えた。
考えてもやっぱりそんな答えしか出てこなかった。

「違う」

頬を片方膨らめて杏がむくれた。

「仲良い女の子いっぱいいるんだよね?」
「だから、どうし…」

俺の言葉の途中で杏が俺の胸にしがみついた。

「…おい?」

髪を撫でると余計にすり寄ってくる。

「その中から私を選んでくれてありがとね」

心底幸せそうに彼女は言った。
意外な言葉に驚いて、一瞬息を飲んだ俺も次の瞬間には杏を抱きしめていた。

「杏だけだから。俺には、杏だけ」

どんなに仲良くても、こいつにだけは及ばない。
好きになったのは。

愛しているのは。

俺には。

橘杏、ただひとり。