そのトキ。

「モモシロくんってさ、いつから私のこと好きになった?」
「ん?」

桃城は杏の声に反応し、その目を雑誌から彼女へと移した。
珍しく掃除された、桃城の部屋に寝ころんで杏はにこっと笑っていた。

「ね、いつから?」

茶色の髪をふわっと揺らした彼女はじっとこちらを見ている。

「うーん…。お前は?」

しばらく考えて、桃城はそう、杏に返した。
そんなことを言うのが気恥ずかしくて、つい逃げてしまったのだ。
けれども、自分も聞きたいという気持ちもどこかにあって。

「気になってたのはずっと前かな。中一のときに見た、『月刊プロテニス』」

あぁ、と桃城は言った。
そういえば、試合に出させてもらった時から何度か、撮られてたっけと頭の中で考えながら。

「何度も見たよ、モモシロくん。……だけど、その時は単に興味の対象だったかな」
「おいおい、一目惚れじゃねえの?」

桃城は少し落胆し、再び雑誌に目を戻した。
けれども、それに集中は出来なかった。
杏が自分を好きになった理由を知りたかったからである。
桃城は雑誌を閉じ、杏に向き直って座った。

「…で?」

はやる気持ちを抑えながら、尋ねると杏は甘えるように桃城にくっついた。

「おい…っ」

突然のことに心臓もせわしなく脈を打つ。
桃城はしばらくドギマギして、彼女の背に手を回した。

「それはまだ会ってなかったときだよ。……会ったときもそんな感じだったけど」
「なんだよ、それ」

彼はまたがっくりした。
実際に会ってでも、恋愛対象として見られてなかったのは結構ショックだった。

「じゃあ、何で」

ムスッとして桃城は言った。

「助けてくれたよね、たくさん」
「え?」
「いつも何かあると助けてくれたでしょ?大会で絡まれたときも、跡部くんにデートさせられそうになったときも」

杏は愛おしそうに桃城の胸にすり寄って、彼の鼓動を聞いた。 少し速い鼓動に安心して顔を上げる。

「嬉しかったんだ、何だか。気づいたらモモシロくんに夢中だったの」

桃城は笑った杏の顔に触れた。

「……ホント?」
「嘘、言わないもん」
頬を膨らませた顔がとても可愛くて、桃城はぎゅっと抱きしめた。

「モモシロくんは?言い逃れはダメだよ」
「え?あ、う~ん…」
「……シングルスでラリーしてくれたときっ!」
「え?」

油断して試合で負けて、自分が悪い癖にむしゃくしゃして。
その癖を見つけ出す手助けをしてくれたのは…杏だった。

「結構最近じゃない?」
「……いいじゃねえか、別に」

…ホントは、ずっと前から。
大会で絡まれてたお前を助けたときから気になっていたのだけれど、俺のほうが先に夢中になったのが悔しいから、つい嘘をついた。
結局、自分は杏のことが好きでたまらないのだ。

「…なんかちょっとショックかも」
「あ?」
「私の方が好きになったトキが早いのって何だか悔しい…」

…ホントは俺のが先なんだけど。
そう思いながら桃城は、杏の茶色の髪をゆっくりと撫でていた。