「……まっ、待てタンマだ、タンマ!!」
完二はそう言って、直斗から顔を反らせた。
顔は真っ赤に染め上がって、まるで茹で蛸のようだ。
「ま、またですか!? ……もう」
彼を責める直斗も寸分の違いのない表情をしている。
何度目だろう、こんな会話を交わすのは。
「も……もう一回だ、ゴラァ!」
気合いを入れ直して、直斗の両肩に乗せた手に力を込める。
ピクリと、彼女の体が反応した。
「……そう何回も、心の準備なんてできないですよ」
「お……おう」
恐る恐る顔を近づける。
こんなに近い距離にいるのに、あと少しがこんなに遠い。
彼女のまつ毛が揺れるたび、吐息を感じるたび、心臓が痛いほど脈を打ち出して、決心を揺るがせる。
「……直斗……」
「巽……くん」
強張った表情でゆっくりとまぶたを閉じる直斗を見、完二も目を閉じる。
頬に触れたのは、震える彼女の手だ。
もう自分が逃げないようにと添えたのだろう。
「ん……っ」
触れた唇は、驚くほど柔らかかった。
甘い香りが鼻をくすぐる。
こうする間にも鼓動はけたたましいほど鳴り響いてどうにかなってしまいそうだ。
どこかこのままでいたい自分もいてひどく混乱する。
「んんっ……」
直斗が身をよじったのを感じて、そっと顔を離した。
「わ、悪ィ、その……」
思わず謝罪が口をつく。
直斗は火照った表情をそのままに大きく頭を降った。
「……です」
「あん?」
彼女らしくないはっきりしない声で直斗が言った。
「……こういうときは……もっと……その」
視線を泳がせた挙げ句、弱々しい瞳でこちらを見つめる。
「好き……とか言って下さい」
「なっ……!?」
その言葉に何も考えられなくなる。
情けなくあたふたするしかなかった。
「えっ、あっ、だっ、そ、その……」
息を吸い込む。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
「すっ……」
もう一度、深呼吸して。
「すっ、すす好きだ……」
今の自分にはもう、これが限界。