「誕生日だな、今日」
突然、ヒル魔が言った。
まもりは驚いて彼を見た。
まじまじと見つめる。
「あ? 何ガンつけてんだ」
「なっ! 別にガンつけてなんか」
まもりは少し赤くなって、また元のように机の上の資料に目をやった。
既に彼の特等席となったその席で、ヒル魔はまもりを見ながらガムを膨らませる 。
「風紀委員がカヨワイ男子生徒をガン見」
「だ・れ・がカヨワイのよ、誰が!」
言って、ため息をつく。
「それに『風紀委員が』なんて、いつまでも部外者のように言わないで」
先ほどと同じ調子で言われたはずの言葉に、ヒル魔は違和感を覚えた。
ほんの少し、まもりの声がうわずったのを感じた。
微かに、ヒル魔の口元が緩む。
「………なら」
ヒル魔はまもりの隣に行き、彼女の顎を軽く持ち上げた。
驚く『風紀委員』の唇に、自分のそれを重ねた。
まもりの手からシャーペンが音をたてて溢れる。
「俺のオンナになれ」
吐息が頬に触れ、どうしようもないほどその場所が熱をおびる。
何か言おうと開いた口は、そのまま言葉を出すことができなかった。
「良いことあったな、誕生日」
「なっ、まさかっ」
やっと声が出た、顔を真っ赤にさせたまもりを見、ヒル魔は酷く得意気に笑った 。
「てめえのことなんざお見通しなんだよ」
さっき出かかったてめえの感情は、デビルバッツのことだけじゃねえ。
「今のが誕生日プレゼント、だ。有難く受け取りやがれ」