リーチ

「ふぅ~」

部活を無断で休み、そのバツとして俺は球拾いを命じられた。
当然と言えば当然で、俺はそのことについて部長に文句を言おうという気はさらさら無い。
けれどラケットを持たない日々というのは俺にとって苦痛でしかなかった。
だから、部活も終わり部員が帰ってから俺は素振りをする事にした。
ボールは打てなくても、フォームを崩す事は出来ない。

「なにやってんだよ、阿呆」

いきなり後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると案の定海堂で、身体にしたたる汗で何周かそこらを走ってきたのがわかる。

「……素振りしてんだよ。…わりぃか」

俺はそれだけ答えてまたラケットを振り始めた。

「お前、部長にラケットは握るなって言われてなかったか?」
「……お前には関係ないだろ」

海堂は大きく息を吐き、その場に座り込んだ。

「……もう、居なくなるな」
「え?」

俺は手を止め、海堂を見た。

「もう、俺の前から居なくなるんじゃねぇ!……調子狂うだろうが」

海堂の目はしっかりと俺を見据えていた。
奴の頬が赤くなるのを見て俺は微笑んだ。

「もう…どこにも行かねぇよ」

そして俺はあいつの身体を抱きしめた。

「おいっ、調子に乗りすぎだっっ」

そういいながらも熱くなるこいつの身体が嬉しくて俺はしばらく海堂を離さなかった。

「…次のランキング戦では必ず勝つから」
「俺には負けとけ」
「それはできねぇな、できねぇよ」

俺はそう笑いながら海堂を抱く腕に力を込めた。