君に嫉妬

君といると嫉妬する。
その大きな手に。
見上げてしまうほどの高い背に。
僕を簡単に抱き締めてしまう体に。
たまらなく欲しかったものを兼ね備えている君が、羨ましくてしかたないんだ。

「あ? どうした?」

僕の視線に気づいた巽くんが、不思議そうに見つめてくる。

「い、いえ」

そう言って顔をそらす。
かぁっと頬の辺りが熱くなった。

(……わかっているのに)

無い物ねだり、なんて子供じみている。
自分のなかに眠ったもう一人の自分にまた、笑われてしまいそうだ。
……と。

「!?」

右手に暖かくて柔らかい感触がして、僕はは思わず、巽くんを見上げてしまった。

「……い、嫌か?」

真っ赤な顔をした巽くんの目は、僕に向けられたはずの問いなのに、視線が泳いでいる。
僕は僕で予想外の出来事に混乱した頭を整理して、やっと状況を見出だす。

(手……、手が……)

手を繋いでいる。
彼の武骨に見える手が、自分のそれを包んでいる。
どうしてだろう。
抱き締められるよりも妙にくすぐったくて、恥ずかしい。

「嫌ならよ、ちゃ、ちゃんと……言えよな」

彼の声に大きく首を振る。

「わっ、わからないです……その、でもい……嫌じゃない」

思うように声がでなくて、つっかえてしまった。
それが更に僕の羞恥心を増幅させた。

「な、ならいいけどよ」

嬉しいのに苦しい。こんな感情、君に出会うまで知らなかった。
僕の欲しいものばかりもっている君が、僕が知らないものを次々呼び覚ましていく。
なんだかとても悔しくて。

「……巽くん」
「あん? って、うおっ!?」

繋いだ手を強く引いてかかとを上げる。
驚いた彼の顔。
そして。

「……!?!?!?」

少し強引な額へのキス。
いつもなら、されるのは自分たけど。

「ふふっ……巽くん、また明日」

たまには君の上をいってもいいだろう?