部室の重い扉を開くと、熱く眩しい陽射しが降り注いでくる。
蝉の声と一緒 に。
「ムッキャー!! 何だよこの暑さは! 立ってるだけで汗だくじゃねーか!」
「お前の声が一番暑苦しい」
モン太の言葉に、揃って突っ込む十文字、黒木、戸叶の声も熱さの為か元気がな い。
それなら突っ込まなければいいのに、そういうことに無視ができないのが彼らの いいところだ。
「おい、糞ザル。これくらいの暑さで我慢できねえようじゃ、試合で持たねえぞ !」
そう激を飛ばすヒル魔の体からも汗が吹き出ていた。
動作をするたび、水滴が顔から離れ太陽の光に反射してキラキラと光る。
「ま・も・姐。なーに見つめてんの」
「きゃっ」
突然の声にまもりは驚いて声を上げた。
透糸高校のセーラー服にローラースケートのいでだちで、まもりとヒル魔を交互 に見比べてニヤニヤしている鈴音が後ろに立っていた。
「も、もう。鈴音ちゃんおどかさないで」
「べっつにぃ~。まも姐が妖兄に熱烈な視線送ってたからさあ~。これはもうラ ブの予感かと思いまして」
「そ、そんなことない! どうして私がヒル魔くんに」
鈴音のニヤついた顔は更にまもりを追い詰める。
違う、違うんだから。
そう、まもりは自分に言い聞かせた。
別に意識なんかしてない。
しょうがないのよ、勝手に視線がそっちへ行くんだもの。
だってあの人はキャプテンだし、私はマネージャーだし。
意思疎通は大切なのよ。
それにヒル魔くんて何でも自分で抱えこんじゃうような人だし。
見てないといつ無理するかわかんないじゃない。
「……っの、糞糞糞マネッ」
「えっ…きゃ、はははいっ?!」
頭の中で言い訳を繰り返していたまもりは、ヒル魔の怒りが滲むその顔がすぐそ こまで近づいていることに気がついていなかった。
危険を察知したのか鈴音はもう傍にはおらず、モン太とアイシールド21に声援を 送っていた。
だらだらと流れているヒル魔の汗がいっそう恐怖をかきたてる。
「何ぼうっとしてやがる! 次タイムはかっぞ」
「う、うんわかった」
……心臓に悪い。
まもりはそう思いながら、傍らにあるタイムウォッチと名簿に手を伸ばした。
「……まだ、糞チビが気になんのか」
まもりは驚いて顔を上げる。
一瞬何のことかわからなかったが、ああそうかと頬を緩めた。
「ううん。さっきはセナのことを考えてたんじゃないわ」
「ほー」
タオルで汗を拭ったヒル魔は、それをベンチに投げやるとメンバーが集まるスタ ート地点に向かった。
その背中を見て、まもりは反対側のゴール地点へと向かう。
どうしてだろう。
いつもと変わらない会話だったのに、何故だか嬉しかった。
「……単なる興味なのかそうじゃねえのか」
ポツリと言ったヒル魔の言葉はまもりには届かない。
「ホント、二人とも素直じゃないんだから」
鈴音はベンチの前に来るとそっと腰掛け、笑った。