夏祭り

「おっまつりだーっっ!」

浴衣の袖を揺らしながら、菊丸が嬉しそうに声をあげた。
毎年のことながら、この青春台の夏祭りは多くの出店や人でごったがえし、とて も賑やかだ。
そんな夏祭りに、普段から仲の良い青学面々と共に桃城はやってきた。
1年に一度しか着ない浴衣はどこか歩きにくかったが、それでもTシャツやいつも 着るジャージにはない涼しさがある。
邪魔な袖を肩まで捲りあげて、たこ焼きやかきごおりをむさぼるのも結構オツな ものだ。

「あれ、あそこに居るの不動峰じゃないか?」

迷子になるから離れるなと、菊丸に言い聞かせていた大石がふと見慣れた集団を 見つけて桃城に声をかけた。
背伸びして見ると、人ごみの向こうにまず背の高い石田の姿が見える。
よくよく見てみれば神尾や伊武も一緒にいるようだ。

「ホントっすね~。アイツラもみんなで来てんだなあ」

おーい、と手を上げて神尾の名前を呼ぶと、振り返った彼の後ろでチラリと薄茶 色の髪が揺れるのが目に入る。

「モモシロくん!」

よく通るその声で名前を呼ばれ、ドキリと心臓が大きな音をたてた。

「橘妹?!」

人ごみの間をくぐり抜けながら杏はこちらに向かってくると、桃城の前でにっこ りと笑顔を向けた。
黄色の布地にピンク色の花を散らしたその浴衣は、彼女にとても似合っていて、 髪の毛を上げたため見えるようになったうなじが、色っぽくその肌をのぞか せている。

「モモシロくんたちも来てたんだね、こんばんわ!」

桃城は小さくおう、と答えそのまま黙るしかなかった。
好きな子がいつもと違う格好をするだけで、どうしてこんなにドキドキするのだ ろうか。

……なんつーか、すっげえかわいい。

桃城はにやけそうになる頬を右手で押さえながら、その場所が次第に熱くなるの を感じていた。
どうしたの、と聞く杏になんでもねーよ、とぶっきらぼうな返答をする。
突然、菊丸が桃城の背中にとびついた。

「妹ちゃんがかわいいから、ドキドキしてんだよね~、桃っ」
「え?」
「へっ、ば…なに言ってんすかエージ先輩っ!!」

桃城は顔を真っ赤にさせて反論するが、菊丸の言葉はしっかり杏へと届いていた ようだ。
桃城に負けないくらい頬を染め、視線を下に落とす。

「えと…その、橘妹?」

思わず覗き込めば、上目使いの彼女と視線がかち合った。
ようやく人ごみを抜けて来たのであろう、神尾の声がする。
けれど、二人の耳には届かない。

「……一緒にお祭り、見て回らない?」

そっと、この輪を抜け出そう。

いつのまにか繋いだ手から伝わる

暑い夏の、熱いキモチ。