chapter.2 瀧 鈴音
心の奥で何か聞こえるとしたら、それは君の声であって欲しいと間違いなく思った。
「まも姐~。 本当に本当にヒル魔さんと何でもないの?!」
「……何でもないわよ?」
あれだけ二人ともラブラブパワー全開で、何にもないわけないっと思いながら鈴音は頬を膨らめた。
ぎこちない、まもりの笑顔が非常にうさんくさい。
嘘は付けないタイプだと、鈴音は確信しているのだ。
「…堅いわね、まも姐」
「……」
鈴音は、ブランコを思いっきり漕いだ。
この町に来るのも何回目になっただろう。
この公園も何度も何度もやって来た。
まもりとやって来ることは、珍しいけれど。
「鈴音ちゃんはどうなの?」
「……へ?」
鈴音は気の抜けた声を出した。
隣のブランコに座っているまもりが、今度は真の笑顔でこちらを見る。
『あーー。なーに青春しちゃってんだ、お前は』
浩二の声に、校庭から見上げた校舎。
こちらを見ていた金色の短髪が、向こうを向いた。
彼を見ただけで少し嬉しくなった。
もっともっと、頑張りたいと思った。
思わず、顔に出たのだろう。
まもりがにこにこしながらこちらを見ている。
それに気づいた鈴音は、焦ってブランコを飛び降りた。
「ななな何にもないよ! まも姐とヒル魔さんみたいにみんなの前でくっついたりとか耳元で囁きあったりなんか全然っ!」
「……そういう風に見えてるの?」
どうしようもないほど顔が赤くなる。
だって、だって、話したことだってそんなにないんだよ?
「まだ…よくわかんないから…」
でも、これがそうなんだと思う。
いつの間にか生まれていた、誰かを『好きになる』という気持ち。
だって、君をみると心臓が爆発しそうなんだもの。
chapter.3 帰る家
誰かに側にいてほしいと、無性に思うことがある。
こんなこと、ガラじゃない。
「かーーーーっ! もう朝かーー」
ビルとビルとの合間に見える空がほんのりと赤くなり始めた。
24時間営業中のSONSONの明かりでさえ、眠気で自然と視野が狭まる目には刺激が強すぎる。
浩二は近所の迷惑やなんたらも考えず、大きな声で言うと、立ち上がって体をそらした。
「んー、解散だな」
サングラスの下の目をこすって、庄三も立ち上がった。
解散。
それこそ、一輝には刺激が強すぎる。
心許した仲間と離れ、心許さないあの家に帰る。
他に行くところもないから、どうあれ帰らねばならないのだが。
「んじゃ、十文字。学校でな」
「じゃな」
「…おう」
この時間だ。
この時間がどうしようもなく苦しい。
いらいらして、拳を握った。
「なにしてんの」
聞き慣れた声に驚いて振り返る。
いつものスパッツにローラースケート姿の少女。
大きな目を一輝に向けている。
「…なんでお前いんの?」
率直な疑問だった。
「いいじゃない居たって。なに、なんか居ちゃ悪いことでもあるの?」
「……ねえけど」
なんでこんな時間に出歩いてんだとか、お前女だろとか言いたいことはたくさんあったがまあいい。
まだ、自分はここにいられる。
「あんたは? どうしてここにいるの?」
鈴音の質問に体中が強ばった。
どうしてかって。
理由は一つしかない。
あの父親から、たった一秒でも離れていたいからだ。
「関係ねーだろ」
「……ん。ごめん」
鈴音はひどく辛そうな顔をした。
一輝の胸がきしむ。
「悪ィ」
一輝の横に鈴音がしゃがんだ。
手を、握られた。
「そんなさみしい顔、しないで」
鈴音の精一杯の言葉だった。
to be continued…