タイトル:お題配布サイト様「ガイと夢見る20題」より
『怖いさ。怖いから戦うんだ』
この長い旅を始めたとき、ルークに言ったその言葉が今でも自分の中に残っている。
たくさんの人が亡くなった。
フィーネはときどき、あの日を思い出して眠れなくなることがある。
16年前に起こったホド戦争。
暖かく自分を迎え入れてくれたガルディオス家の人々。
会えば優しい笑顔と言葉をかけてくれた島の人達。
消えていったぬくもり。
振り上げられた剣。
自分の体から噴き出る鮮血。
壁にこびりついた血痕。
孤独と恐怖。
そして虚しさ。
憎しみと共にくる哀しみ。
守りたかったひとを守れなかった自分への怒り。
「ふっ…く…っ」
フィーネの碧の瞳から大粒の涙が溢れた。
あのときの記憶は、何年たっても忘れることなんてできない。
旅の途中で立ち寄った宿屋の、薄暗い部屋のベッドの上でフィーネは膝を抱えた 。
その膝から出来たシーツの波がカーテンの隙間からもれる月明かりに浮かぶ。
コンコンッ
小さなノック。
蝶番からギィッと音が溢れた。
小さくて明るい光。
思わず顔を上げれば、そこにはガイが立っていた。
「夜這いに来たんだが、何だかそいつは無駄だったみたいだな」
ガイは持っていた灯りを小棚に置いて、フィーネのベッドに片足を全て乗っける 形で腰掛けた。
フィーネの頬を濡らす涙を親指で拭って、そっと彼女を抱き寄せる。
「……また昔のことを考えていたのかい?」
恐怖症からか涙のためか、震える彼女はガイの胸のなかでコクリと頷いた。
ガイはフィーネの背中をそっと撫でる。
この仕草がフィーネは好きだった。
ガイがこうすることでいつも安心する。
一人じゃないと思うことが出来る。
「ガイ様…。もう……どこにも行かないで…っ」
フィーネの手が、ガイの服を掴む。
ガイは一層彼女の背中にまわす腕に力をこめた。
「もうどこにも行かないさ。ずっとずっと君の…フィーネの傍にいる」
ガイは彼女の額に軽いキスをした。
やっと心が安らいだようにフィーネはガイに笑顔を浮かべる。
「ガイ様。私は一生…ガイラルディア様の影としてお仕えさせ て頂きます」
「妻、でいいんだけどな」
サラリと返すガイに、フィーネは赤くなった顔を隠すように彼の胸に顔を埋めた。
ガイは笑って、彼女の自分と同じ色の髪を撫でる。
『怖いから戦うんだ』
いつか、ルークに言った言葉がガイの頭をよぎる。
今ならその先のセリフにもう少しだけ付け加えることがある。
君の傍にずっといたいから。