2.常に貴方を考える
「あぁもうなんなんだ、クソ!」
さすがに俺も叫ぶぞ、畜生。
周りの連中がどんな目で見ようと、知ったことか。
ゴミ箱蹴飛ばしたら、へこんだそれが少しの間空を飛び、中身が床に散らばった。
数日前のほんの些細な出来事が、なぜだか頭の中をぐるぐる回る。
同じことばっか頭で反芻してんだぞ。
それも無意識にだ。
んなことが四六時中続いてみろ。
気が狂いそうだ。
「どうしたの、ヒル魔。……なんか変なものでも食べた?」
てめえは食い物基準にしか物事考えらんねぇのかよ、糞デブ。
心配そうにのぞき込むこの男にもイライラしながら左手で頭を掻きむしった。
んなことじゃねえ、もっと。
もっと胸クソ悪イ。
椅子の背もたれに座り、俺は気を紛らせるためにガムを噛む。
まだだ。
まだアレは俺の中から消えてなくならねぇ。
「ちょっと!」
部室のドアが開くなり、耳に触る高い声が響いた。
こいつだ。
こいつのせいで俺はおかしくなりかけてる。
「何で、片づけた先から散らかしてくのよ貴方は! 汚したら自分で何とかしなさい!」
片手でモップ持ち、つかつかと俺の前まで来たこの女。
俺の苛つく原因は、てめえなんだよ。
元凶が現れることねぇだろうが。
糞マネの後ろでは、糞デブと今し方やって来たらしい糞チビがブルブルと体を震わせている。
あぁ、もうふざけんじゃねえ。
俺だってな、どうにかしてえんだ。
この女見ると、無性に腹が立つ。
しかもな、この女に対してじゃない『何か』に、だ。
「ねぇ、聞いてるの?!」
「んなギャーギャー言わなくてもここに耳はついてんだろうが」
クソ、調子狂う。
なんで俺が自分で蹴り上げたゴミ箱を元に戻してんだ、格好悪ィ。
ちらりと糞マネを見れば、至極嬉しそうな笑みを浮かべている。
不覚にも、…………。
「………」
不覚にも……?
あー、ついに俺はどうかし始めたらしい。
この女を直に見てから、アレがまた俺の底からこみ上げる。
あぁ、なんでだ。
てめえがあの日、俺のパソコンのを覗きこんだあの日。
てめえが俺をあんなに見てなけりゃ。
こんなに俺が、てめえを思い出すことなんざねえんだよ。