恋愛お題5 - 4/5

4.抱きしめたい

「誰が誰を好きだって?」

糞デブの訳わからねぇ質問に、俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「だから、ヒル魔がクラスの……」
「んなわけあるか、バカ」
「でも、噂になってるよ。今日だって、仲良さそうだったじゃない」

てめえなぁ、俺が二言三言女に話しすりゃそれでもう好意抱いてることになんのか。
どんな理屈だ。
もしそうなら、糞マネにはどんだけ……あー、こいつについて考えんのはいい加減やめろ、俺。
なんで、いつだって脳の片隅に居座ってやがる。

「違うの~? なーんだ、もしかしたらお祝いかと思ってたのに」
「……何で祝うんだ。大量の喰いモン喰いてぇだけだろてめえは」

俺は部室のドアのノブを持った。
ひねれば開く扉。
そして。

「……糞デブ。このまま練習行ってこい」
「え、どうして?」

どうして、だと?
そんなもん、俺が一番聞きてえよ。

俺は、一度部室のドアを閉めた。

「糞チビ連れてさっさと校庭行け! 着替えなんてそこらへんで着替えりゃ済むだろ?!」
「わ、わかった~っ!」

そう言って、糞デブはドタドタと走っていく。

……何がしてえんだ、俺は。
深呼吸して、もう一度ドアノブをひねる。
聞こえる、女の嗚咽。

「……甘いモンでも喰い過ぎたか、糞マネ」

机に伏せって肩を震わせていたその女は、恐る恐る顔を上げる。
……ひでぇ顔。
けれど間違いねえ、姉崎まもりだ。
泣きじゃくって、涙が頬を濡らしている。
あんな気の強え女が、何故。

「来ない……で……」

俺を見てさらに苦しそうな顔をする。
どうしてか俺も苦しくなった。

「来んなっつったって、てめえがそんな状態じゃ気になるだろ」
「ヒル魔くんの顔……見たくない」

心臓が、潰された。
そんな感じだ。
影でコソコソ言われるなんざ慣れてる。
正面から言われたって別にどうってことねえ。……はずだった。
なんでこいつの口から出た言葉に、衝撃を受けてるんだ?

こんなことで。
たったこんなことで。
この俺が。

「……どういうわけだ」
「……わかんない。でも、嫌なの」
「言ってる意味がわかんねえ」

「もう……私の中に、入ってこないで……」

涙でぐしゃぐしゃになった顔で、糞マネが言った。

んな顔、俺にみせんじゃねえ。
イライラすんだよ、胸糞悪ィ!
あー、クソ!

こんなにムカムカすんのに、俺はこいつを抱きしめたくなった。

否。

感情より、体が先に動いてた。