5.どうしても好きな人
「どうしてくれる」
俺は、こいつの腕を無理矢理引っ張り、強引に胸へと引き寄せた。
「今頃嫌だとか、見たくないとか言われても遅過ぎんだよ」
俺の頭ん中、これだけ支配しておいて。
てめえのせいで試合中、頭回らなくなったらどうしてくれる。
「てめえが……っ」
「誰にでもこういうことするの?」
俺の言うことを遮って、糞マネが信じられねえほど弱々しく言った。
「は? 何言ってんだ」
「今日、廊下で……女の子と楽しそうに話してた」
「でも、噂になってるよ。今日、仲良さそうだったじゃない」
糞デブの言葉と、こいつの言葉が、重なった。
なんなんだ、全く。
どいつもこいつも。
そんなに俺をそいつとくっつけてえか。
プツッと、何かが繋がった。
「てめえが俺を殺そうとしてんだぞ」
糞マネはぽかんとした顔をした。
解れ、バカ。
これが答えだ。
「してないっ」
少し考えた後、糞マネはこう返した。
「してる」
「してません!」
「してんだよ。心臓にナイフぶったてて」
「してないってば」
ああ、どんな殺し文句だ。
文字通りじゃねえか。
まあ、実際そうだから仕方がねえ。
「だから、俺もお前を殺す」
「!? なっ、何言って……」
腕をつかんだら、抵抗した。
当然だ。
尋常じゃねえ顔してんだろうな、俺。
だが、全部
罠だ。
恐怖で、目を瞑った姉崎。
倒れた椅子。
音を立てて、場所を移動する机。
残念だったな。
俺がお前を殺す道具は、てめえが突き立てたナイフでも、そこに転がる機関銃でもねえ。
俺は気づいたんだよ。
アレの正体に。
とっくにアレに俺は押し潰された。
アレを経由して、てめえは俺を殺したんだ。
だから。
だから、お前も。
「好きだ、姉崎」
「え……」
壁に、こいつを押しつけて。
距離を狭めて。
唇を重ねて。
お前も、アレに
押し潰されちまえ。
アレの正体は、
『 』
「………ねぇ、ヒル魔くん」
「……ああ?」
「結構、シャイね」
「………この糞マネ」
笑ったその顔に、アレがまた迫り来る。
あぁ、まだ俺は生きてる、らしい。
いつのまにか繋いだその手から、こいつの心臓の音が伝わってくる。
手のひらで伝わるほどの鼓動。
こいつも、生きてる、ようだ。
「でも、『殺す』なんて物騒」
「俺が俺でなくなったんだ。てめえのせいでな。他にどんな表現方法がある?」
アレは、てめえに対してだけわき上がる。
てめえのことばっか考えて考えて、俺を埋め尽くすんだ。
あの日。
どこにときめくなんて要素があったか知らねえが、
確かに俺は、お前を。