真夏の恋のユメ

「ちっ」

まもりが汗を流すほど苦労した原因の張本人は、舌打ちをしな がらもやはり、パソコンに向かっていた。
まもりは救急箱を閉めると、無言 でヒル魔を見つめた。
無理はして欲しくない。
だけど、夢は諦めて欲し くない。
感情が入り乱れてなにも言葉が出てこない。
まもりはうつむくと、立ち上が り、皆のところへ帰ろうとする。

「!」

右腕を捕まれた。
見ると、ヒル魔の手が彼女のそれを掴んでいた。

「ここにいろ」

ヒル魔はまもりの顔も見ずにそう告げた。

「…さっきは向こう行けって 言ったくせに」

まもりは、ヒル魔のとなりに座った。
といっても、 ヒル魔は銃のケースに座っていたのでまもりより高い位置にいるが。
パタン とヒル魔はパソコンを閉じた。
何かひと段落ついたのだろう。
まもりは 膝を抱えて黙っていた。

「おい、糞マネ」

突 然彼がまもりに呼びかけた。

「そんな名前じゃありま…」

反射 的にヒル魔を睨みつけようとしたまもりの唇に柔らかいものが触れた。
視界 がぼやけるほど目の前にヒル魔がいる。
それでやっとまもりは、触れたのは ヒル魔の唇だと分かった。

「んっ…ふ…っ」

ヒル魔の舌がまも りの口に入り込み、絡められた。
熱い動きにまもりは目を閉じる。
優し く、溶かすようにヒル魔の舌はまもりを攻める。
知らぬ間に、まもりは彼のT シャツを掴んでいた。
そしてヒル魔もゆっくりとまもりを抱きしめる。
角度を変えて何度も、ヒル魔はまもりを翻弄する。
まもりはぎこちなくもヒ ル魔の舌を受け入れた。
どちらのものとも言えない唾液を飲み込み、彼の舌 に酔わされ。
まもりを存分に味わい、ヒル魔は唇を離した。

「ささ やかなオレイ。」

そう言ってヒル魔は、顔を火照らせたまもりをケケケ ッと笑った。

「……さい…て…い…」

息が整わないまもりはヒ ル 魔をキッと見つめた…が、涙混じりの目では効果はなかった。
再び、唇の感 触。
だが、それは至極軽いものであって。

「嫌そうには見えなかっ たがな」

勝ち誇ったように言って、ヒル魔は立ち上がり歩き出す。
どこへ行くのか。
まもりはただそれを見ているだけだった。
そっと唇に 手を伸ばす。
そこはまだ熱く濡れだままだった。
体全体の脈がひどく波 打つ。
初めてのキスは激しすぎて。
くらくらした。
だけど…

……ヒル魔くんでよかった……

まもりは静かに笑みをこぼした。