「……っんの、バカッ!! 直斗、危ねぇっ!!」
「!!」
……格好つけて庇ったものの、テメェがそのままぶっ倒れてちゃ意味ねえだろうが。
「……巽くんっ!」
「……っ……?」
目を開くと、見慣れた天井があった。
……あ? さっきまでテレビん中にいたんじゃなかったっけか?
ボーッとした頭で記憶を辿る。
そうだ。確か、シャドウの奇襲受けて、直斗に────
「良かった!」
「!?」
なんだ!? 何かが覆い被さって……って。
「なっ、なななななな、直斗!?」
ど、どうなってやがる!?
お……落ち着け、オレ! よく考えてみろ。
ここはオレの家だ。んでもって、オレの部屋だ!
んなトコに直斗が居るわけねぇだろ!
ということは、だ。つまりこれは夢ってことで……。
「あっ……すみません……」
そうこう考えてる間に、直斗はオレから離れた。
夢……じゃねぇ、のか。
……なんかちょっと勿体ねぇ気がするぜ……。
「ど、ど、どうしてここにお前がいんだよ? ってか、何がどうなった」
オレは起き上がって直斗を見ようとして、反射的に顔を逸らしてしまった。
クソッ、なんでコイツを直視できねぇんだ、オレ……!
ってか、ちょっと涙ぐんでなかったか? 直斗のやつ。
「……そうですね。君は気を失っていましたから。ご説明します」
直斗は気落ちしたような声で、話し始めた。
どうやらやっぱりオレは、シャドウの攻撃にぶっ倒れちまったらしい。
傷の手当は天城先輩がガツッとやってくれたらしいが、どうにも目を覚まさねえから一度コッチに戻ってきたらしい。
「あ~~」
オレは頭を掻いた。
どういうこった。めちゃくちゃカッコわりーじゃねぇか!
「本当にすみません」
直斗の発した声音は、恐ろしく暗かった。
「……僕をかばったせいで、こんなことになってしまって」
「あ? なんでお前が謝んだよ。……迷惑掛けたな、時間に限りがあるってのに」
先輩達にも明日謝んねぇとな。
オレらは時間をムダにするわけにはいかねえから。
「すみ……ません……」
か細い言葉に、直斗の方に向き直る。
そこには、今までのコイツからは想像もできないような表情をした直斗がいた。
「僕……何もできなかったんです。僕を守ってくれた君を、目の前で倒れた君を見て、足が……動かなかった」
正座した膝の上に置かれた両こぶしに、ポタポタと水滴が落ちる。
それが涙だと気づくのに少し時間がかかった。
「先輩方が君を介抱するのをただ見ているだけで……でも、君の顔から血の気が引いていくのが怖くて……」
「直斗……」
「……ここへは、鳴上先輩と花村先輩が運んでくれました。お二人は先程帰りました」
直斗の細い肩が小刻みに震えている。
それを見て少し迷った。けれど、気づいたら疑問が口をついて出ていた。
「お前は? どうして……帰らなかったんだよ?」
「僕は…………わかりません。ただ、目を覚まさない君をそのままにはできなかったんです」
そう言って、直斗は小さく息を吐いた。
「……君に悪いという気持ちがあった。だから、何もしないわけにはいかないと思った。
けれど、肝心なときに頭が働かなかったんです。常に冷静さを失わないようにと心がけていたのに」
「…………」
オレは、直斗の次の言葉を待っていた。
どう声をかければいいのかわからなかったからだ。
「手を……」
「あ?」
ぐちゃぐちゃ頭ン中で考えてると、直斗がぽつりと言った。
「手を握っても……いいですか?」
「は……っ!?」
意味がわからず、口から空っぽの息が漏れた。
コイツは今なんて言ったんだ? 手を……握る!?
オ……オレの手を!?
「べっ、べべ、別にいーけどよっ。んなもん、何に……」
「ありがとう」
「!?」
涙で濡れた顔に微笑みを浮かべて、直斗はオレの手に触れた。
小せぇ……ってか、柔けぇ!!
いやいや、なんでこんな展開になってんだ!?
「……あったかいな」
「お、おぅ……」
「さっきは冷たかったから」
「!?」
“さっき”は……!? さっきはって言ったか!?
ってことは何か!? 直斗は前にもオレの手を……。
オレの言わんとしたことがわかったのか、直斗は驚いたような顔をして目を伏せた。
「ごっ、ごめん……し、心配……だったから……その、ずっと君の手を……」
心臓を力いっぱい握られた気分になった。
だあっ、クソッ! なんでそんな可愛い顔してんだ、チクショウ!
「直斗……っ!!」
「わっ!? 巽……くん!?」
オレは直斗を抱きしめていた。
反射的だった。だがもう、そんなのどうでもよくなっていた。
直斗がオレに気ぃー使ってくれたのが、嬉しくてたまらなくてよ。
「……いいんだよ、んな責任感じなくても」
「え……?」
「オレァ、お前が無事ならそれでいいんだ。ちっとカッコ悪ィとこ見せたけどよ」
「そんな……」
「んだコラァ!! 俺がいいってったらいいんだよ!」
ああ、ったく。なんでオレ、こういう言い方しかできねぇんだ。
「……お前が……こ、こうしてオレを看ててくれたので十分だ」
「巽くん……」
「…………ありがとよ」
照れ隠しで、ぎゅっと直斗を抱く腕に力を込めた。
オレはコイツを守って、んでテレビん中に落とされた連中を守る!!
ぜってぇにだ!
そう、オレはテメェの心に誓いを立てた。