見ツメ合イ

ヒル魔くんの目線の先を追ってみた。

青い空。
思わず笑顔になって、また視線を彼に戻した。

太陽の光。

キラキラ光る、貴方の髪。
整った容姿。

みとれてしまう。
貴方の全てに。

鳴り響く、笛の音。

力強く地面を蹴る貴方の足。

50メートル走。

クラスの誰かに名簿へと書き込まれたタイム。

学校指定の短いズボンは、なぜだかとても貴方に似合う。
可愛い、とまで思ってしまうわ。

これは重傷。
貴方を好きになりすぎてる。

目が離せない。

もっと見ていたい。

想いとは裏腹に、遠のく意識。

左側頭部に強烈な痛み。

私を呼ぶ、友達の声。

誰かが走り寄る、音。

「どーしようもねぇ、バカが居やがる」

返す言葉もございません。

「ドッヂボールで、まさかよそ見をするとはな!」

はい、全く本当に不注意極まりないです。

「しかも遊び半分で始めたドッヂボールでなぁ?」

その通りです。
私がやりたいと言い出しました。
言っておきながら、貴方にみとれておりました。

気がついたら、保健室。

頭にキーンという音が響くほどの冷たい感覚。

何故か私は、先ほど見とれていた相手の膝に頭を預け、ボールのぶつかった左側 頭部を氷の入れられた袋で冷やされていた。
目を開けたとき、心配そうな顔をしたヒル魔くんが目に入り、さっきの体育の授 業のときよりずっと胸が高鳴った。

けれど、そんなことは束の間。
すぐに私の耳にさきほどの罵声が飛ばされた。

「こちらをじっと見ておられたようですが、しっかりものでまじめな風紀委員の 姉崎さんは一体何に目を奪われていたのでしょうネェ?」
「…!!」

私の行動は、確実にバレていた。
顔が熱くなるのを感じる。

「べっ、別にヒル魔くんを見ていた訳じゃ…っ」
「ほう。じゃあ、誰を見ていたのかなあ?」
「………バカッ」

違う。
バカは私。

貴方は心底おかしそうに笑う。

「まー、良かったな。これでまた俺の端正な容姿を眺めることができる訳だ」
「…自意識過剰…」

精一杯の反論。

でも、そうね。

あのまま、目を覚まさなかったら。
貴方をもう見ることが出来なかった。

…かもしれない。
考え過ぎかも?

「とにかく気をつけるこった。何度もこんなとこ来たくねえし」

そう言って、ヒル魔くんは氷の袋を持ち上げた。
そして、ボールが当たったであろう場所に貴方の手が触れる。

「行くぞ。てめえのせいで体育の他にもう1時間さぼった」
「う……って、ヒル魔くんは普段からさぼってるでしょっ」

体を起こし、ボールがぶつかった部分に手をやる。
思ったよりも腫れてなんかいなくて、驚いた。

「ヒル魔くん」

細くて白い足がピタリと止まる。
細いのに筋肉がついて、力強い足。

「ありがとう」

おぅ、と軽く返事をし、また歩き始める貴方。
それを追う私。

あの時、走り寄ってくれたのは貴方。

保健室に連れていってくれたのも貴方。

もしかしたら、見とれていたのは私だけじゃなかったかも、って。

思ってみても、いいですか?