『……って、わけでぇ、完二にもちゃんと雑誌渡しといたからね!』
「“ってわけで”じゃないですよ、久慈川さん!! なっ、ななっ……なんてことを!」
思わず大声を上げた直斗に、彼女と同じく特別科学調査室にいた黄楊と創世の視線が突き刺さる。
3月の終わり、りせのSOSに応じて半ば強引に撮影された水着姿のグラビア。
あんな撮影を了承した時点で、自分のあられもない姿が全国に出回ってしまうことは仕方がないことだと思ってはいたが。
「即刻、即刻回収して下さい!! 今すぐ!!」
全国規模で流布されるより、知り合いに見せるほうがはるかに恥ずかしい。
しかもよりにもよって巽完二にだ。
『ダーメ。離ればなれで完二だって寂しそうだもん。直斗くんを見て元気出してもらわないと』
「だからって、あの雑誌を渡すことないでしょう! た、たた、巽くんだって迷惑していますよ!」
『完二が? するわけないじゃん! いい? 直斗くん。遠距離恋愛って、結構タイヘンよ』
「……僕と巽くんはそういう関係ではないのですが」
『まったまたー! お互い意識してるの丸わかりだって! とにかく、そういうことだから。じゃね!』
……何がそういうことなんだろう。
一方的に切られた携帯を眺めて、ため息まじりに肩を落とした。
「そうだ、巽くん!」
もう見られたかもしれない。けれど、こちらにも言い分というものがある。それだけは伝えておこう。
アドレス帳から彼の名前を探す。
…………と。
「おい、直斗。タツミって誰だ?」
「なっ!?」
知らぬうちに後ろのソファにいたはずの創世が目の前に立っていた。
「決まってんだろ、あの“ボイン”に一番近い男だろ、な!」
「つ、黄楊さん! そういう言い方は━━とっ、友達です! 友達!」
「せっかくの“ボイン”を持て余してる女だと思ってたが、俺様の知らないところでやることやってたんだなあ、おい」
聞いていない!
「だっ、だから……」
直斗の眼前に創世がズイッと人差し指を立てた。
「おもしれえ。この創世様がタツミってやつに会ってやろうじゃねえか!」
「はっ!?」
いきなり何を言い出してるんだ、この男は。
背の高い創世を見上げる。
「……どうして創世さんが巽くんに会う必要があるんですか?」
「どうしてってそりゃあ見てみた……いや、直斗のホゴシャとしてだなあ」
「僕は創世さんに保護された覚えはない!」
創世が、まさか完二に興味を持つとは。
ただの好奇心と言われればそれまでだが、直斗にとっては意外の一言だった。
「行ってくりゃあいいじゃねえか。気晴らしにはちょうどいいだろう」
「……はい」
“気晴らし”。
黄楊からその言葉を聞いてしまったら頷くしかできない。
ここ数日で本当に……本当にいろいろあったから。
「よし! 決まりだな。ジジイ! ちょっくらいってくるぜ!」
「おう! 行ってこい!」
「えぇ! 今からですか!?」
もう夜中の9時だ。田舎にある稲羽市方面の電車はあるだろうか。
むしろ今から行く意味は? そして完二の都合は?
「安心しろ! 俺様がいっちょかっ飛ばしてやるからよ!」
そう、目を輝かせる創世を止める術を直斗は持っていなかった。
前向きに考えよう。
しばらく顔を見ていない完二にも会えるし、雑誌も回収することができる。
直斗は調査室を勢いよく飛び出した創世を力なく追うのだった。