「……むにゃ……って、うおおおおお!?」
ポケットの中からの振動に、完二は声を上げた。
どうやらあみぐるみをしながら、うたた寝をしていたらしい。
「あとちょっとだってーのによ」
手の中にあるのは、作りかけのスクナヒコナ。
何を作ろうか迷ううちに、手が勝手に動いていた。
「……っと、これで完成。って、こんなもんどうすんだよ」
自分に呆れながら、机の上にスクナヒコナを座らせて携帯を取り出す。
「“直斗”……!?」
届いたメールは、昼間出しそびれた相手。
急いで開封する。文面はそっけないものだった。
『久慈川さんが渡した雑誌を持って、今、辰姫神社に来れますか?』
勢いよく立ち上がった。
テーブルががたんと音を立てて揺れた。
今? 辰姫神社だと?
しかもあの雑誌を持ってだあ?
いろいろと不可解な内容だ。
「来てんなら……」
せっかくだ。
完成したばかりのスクナヒコナを彼女に渡そう。
携帯とは反対のポケットにあみぐるみを突っ込んだ。
「雑誌……雑誌と」
ベッドの上に放り投げたままの鞄から、アイドル雑誌を取り出した。
「これに何かあんのか?」
ページをめくろうとした。
その刹那。
「うおっ!?」
携帯が再び振動する。今度は電話だ。
相手は……直斗。
思えば、彼女から電話が来たことなど数えることしかない。
完二とて、純粋な高校生男児だ。
好きな子から電話とあれば緊張する。
ゴクリと、生唾を飲み込んだ。
鳴り続けるバイブレーション。
恐る恐る通話ボタンを押す。
「もしも━━━」
『おう! お前がタツミだな!』
直斗ではない。
男の声だ。
もう一度通話画面を見る。
ディスプレイには“直斗”の表示。
「……誰だ、てめえ。なんで直斗の携帯からよこした」
『俺様か? 俺様は黒神創世。直斗のパートナーだ』
「ぱ、パートナー?」
普段の生活では聞き慣れない言葉に首を傾げる。
よくドラマなんかで耳にする言葉だ。
ようは、陽介が鳴上に対してよく言っている相棒って意味で……。
いや、結婚した相手にも使っていたような……。
「っておい! まさかそっちのパートナーじゃねえだろうな!」
『はあ? そっちってどっち━━━━』
『巽くん!』
創世を遮るように、聞き慣れた声がする。
携帯の持ち主、直斗だ。
「直斗! お前、こりゃあどういう……」
『今、僕らは辰姫神社にいる。君にどうしても会いたくて……不躾ですまないけれど』
「べ、別にいいけど……よ」
“君にどうしても会いたくて”
その言葉が、男・巽完二の心を掴む。
『よかった! では、メールでお願いした通りあの雑誌を持ってきて下さい。……もうみましたか?』
「いや、見てねえが……」
『それでいいです! そのまま開くことなく僕のもとまで持ってきて下さい! お願いします』
プツリと、電話が切れた。
直斗の電話を使った、彼女のパートナーだと述べた創世という男。
しばらく会えないと思っていた想い人の急な来訪。
これが意味するものは。
「……その喧嘩、のってやらあ!」
そして完二は、足早に辰姫神社へと向かった。