「思ったより、ノリノリだなぁ糞マネ」
嫌な、しかし心底面白そうな笑顔を浮かべ、ヒル魔は次の競技に使う着ぐるみの 頭を脇に抱えた。
それさえ被ればもう、『見た目はウサギ、中身は悪魔』が出来上がる。
「言わないで! …本当に…恥ずかしいんだから」
まもりはそう言うと、手に持っていたベールを頭に被せた。
白いそのドレスは、彼女の日本人離れした美しさを引き立たせている。
二人佇む渡り廊下からグラウンドは目と鼻の先だ。
泥門生の歓声や応援が聞こえる。
「それにしても、なんでウェディングドレスなのかしら」
まもりはくるりと一周した。
フワリとドレスが揺れる。
「ヒル魔くんのは仮装っぽいのにね」
まもりはヒル魔の胸に触れた。
着ぐるみらしい、フサフサとした触感が気持ち良い。
「似合ってるぜ」
不意に、ヒル魔が言った。
驚いたまもりは目を丸くする。
その表情は薄いベールに包まれて。
「…なんだよ」
ヒル魔が怪訝そうな顔をしたのを見ると、まもりはハッとして下を向き、顔を横 に振った。
彼女をよくよく見てみれば頬を赤く染めている。
可愛いヤツ。
にっ、と笑うとヒル魔は空いている右手で彼女のベールを上げた。
まもりは顔を赤くしたままゆっくりヒル魔を見上げる。
ベールを上げた手で、彼女の頭を後ろから支えた。
「…ヒル魔くん、ここで…?」
「誰も見ちゃいねーよ」
唇が触れる。
ヒル魔のキスはいつだって甘く、そして優しい。
唇を離し、ヒル魔はまもりの額に音をたてて軽く口付けた。
「ハイ、このあとも頑張りマショウ」
棒読みがちに言うと、ヒル魔はまもりから離れる。
彼はそのままグラウンドに向けて歩き出した。
まもりは少しの間ぼーっとしていたが、やがてドレスの端を上げるように手で持 ち、小走りでヒル魔のあとを追う。
「ヒル魔くん、なんか今日おかしいよ」
まもりの言葉にヒル魔はニヤリと笑い、彼女の方を向かずに答える。
「浮かれてんのかも、しれねーな」
次の競技は、仮装リレーだ。