chapter1. リセット
人生のリセット。
んなことができりゃ、苦労はしねえ。
過ぎたことなんかどうでもいいが、確かに今までひっかかるもんはいくらでもあ った。
だが、選んだ道は進む。
引き返さねえ。
引き返したくもねえ。
んな暇はねえんだ、俺には。
「てめえどっから来た」
学校の、しかも高校の屋上になんでこんなにちいせぇガキが居る。
身につけているのは泥門の制服で、サイズなんか当然合わねえから、スカートに 至っては床のコンクリートに広がるように接触している。
こいつの茶色がかった髪に、透き通るような青い瞳。
似てやがる。
あの女に。
泣きじゃくるそいつは、小さな手で自分の目をこすり、微かな鳴き声をあげなが ら俺をみた。
「…っ…お兄っ…ちゃん…誰…?」
俺はこいつに興味がわいた。
興味がわいた、と言うよりはこいつの側にいなけりゃなんねえと、直感したわけ だ。
こいつの声は……多少ガキ臭くなってやがるが。
まぎれもなくこいつは、
『姉崎まもり』。
「お前、名前は」
「…まも…り…っ」
ほら見ろ。
何してやがんだ、この女。
何がどうなってこうなった。
…変なことに巻き込まれたな。
んなことなら、サボらず授業出ておくんだった。
…いや、ほかの奴に見つかっても面倒だ。
「……しょうがねえ」
晴れ上がった空。
アメフトの練習にはもってこいだ。
いいか、俺には時間がねえんだ。
わかってるだろ、糞マネ。
だがな。
てめえがいつまでもそんな状態でいてもらっても困んだ。
俺はしゃがみ、姉崎の視線に合わせる。
「俺の家に来い」
数秒、姉崎がきょとんとした顔で俺を見る。
「来い」
俺は、小さくなった姉崎の身体を抱き上げた。
スカートだけがパサリと完全に落ちる。
あまりの軽さに驚いた。
「やっ…知らない人についてっちゃいけないって…お母さんが…」
……まじめくさったとこは小さくなっても同じじゃねえか。
「……蛭魔妖一だ。これでもう知らないなんて言わせねえぞ」
俺は片手で姉崎を抱き、スカートと靴を拾った。
「…うん!お兄ちゃんっ」
……結局それかよ。
姉崎は、満面の笑みを浮かべた。