chapter2. 代償
「これ着とけ」
「わー、真っ赤っ」
だぼついた制服じゃ目立つ。
同じ目立つならユニフォームの方がまだマシだ。
途中で部室に寄り、姉崎にロッカーにあった俺のユニフォームを投げてやる。
なんとなく着替えの様子を見てみる。
ぎこちない手でリボンをほどき、ブラウスのボタンをはずそうと試みている。
そんなことに奮闘するこいつがどうしようもなく可愛い、と同時にイライラする。
「貸せ」
姉崎の手をどかし、ボタンをはずす。
いとも簡単にボタンははずれた。
面倒だったので下着ごと脱がせてしまった。
つい、まじまじと身体を見てしまう。
コレがあんな風になるのか、と意外にも冷静に受け止めた。
そして、アレがどうなってこうなるんだとも思った。
どうしてこいつはこんな風になったのか。
改めて考えてもわからねえ。
ジャージを上からかぶせてやると、姉崎は自分で手を出し、着心地を確認する。
俺は姉崎の服を適当にたたみ、鞄にしまおうとしてそうかと気がつく。
授業終了の鐘が鳴る。
俺は携帯を取り出し、発信履歴を開いた。
そして電話する。
『もしもし、ヒル魔~。また授業さぼったでし…』
「糞デブ、糞マネの鞄持ってこい」
糞デブの言葉を遮り、俺は口早にしゃべった。
『えぇ~っ!何、どういう…』
「どうでもいいから持ってこい。あいつの教室入ってぶんどってくりゃすむこっ たろ」
『そんなこと出来ないよ~』
「許可はとってあるから、さっさと持ってこい!」
一方的に携帯を切り、ポケットにしまう。
俺の声に驚いたのか、じっとこちらを見る姉崎。
「これから糞デブが来るから何があっても一切しゃべんなよ」
こくりと姉崎は頷き、そして口を開く。
「………。ふぁっきんってなに?」
「……あー……それを説明すんのか。面倒くせえな…」
俺は頭を掻き、目線を再び姉崎に合わせる。
「『糞』っつーのはな、く…」
「ヒル魔ぁ~!姉崎さんの鞄持ってきたよ~」
「………。……遅えぞ、糞デブ」
部室の扉が大きな音を立てて開き、でかい身体が顔を覗かせる。
「遅くないよ~。すぐだったじゃない」
俺は姉崎の鞄を糞デブの手からひったくった。
糞デブの目線が姉崎にいく。
「……この子…誰?」
「隠し子」
俺は即答し、反論しそうな姉崎の口を塞いだ。
「でも……なんか、姉崎さんに似てない?」
「だから、俺と糞マネの隠し子」
「えぇ~~~~っ!!!」
おー、こりゃ完全にだませたな。
どう考えてもありえねえことだと思うが。
「じ、じゃじゃあ、姉崎さんはどこ…?」
「二人目の子供が出来たかどうか検査」
「ええええぇぇーーっ!!!!!!」
俺に苦労かけんだ。
これくらいの仕打ちは受けてもらうぞ、姉崎。
元に戻ったら存分に困りやがれ。
「ヒヒヒヒル魔、だだだ大丈夫なの?!姉崎さんもだけど学校とかお家とか」
「だから、『隠し子』なんだよ。わかったか」
「うっ、うん…」
俺は糞デブに気づかれないように、姉崎の制服を鞄に押し込んだ。
相変わらず、甘臭えにおいのする鞄だ。
「つーわけで、俺らは産婦人科に行かなきゃなんねぇから部活休むぞ」
「わかった…」
俺は片手で鞄を二つ背負い、もう片方は姉崎の口に当てたまま抱えて部室を出る。
心配そうな顔をして送り出す糞デブを背に、俺は校門を抜けたところで姉崎の口から手を離した。
「くっ苦しいよ、お兄ちゃんっ」
「てめえがなんか言いそうになるからだろうが」
小さくなっても変わらねぇ騒々しさに、俺は内心呆れていた。