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燻った感情

空を見上げると一面の星空だった。スペルビアに到着するまでは薄暗い曇り空だったのに、いつの間に持ち直したんだろう。そんなこと考える余裕もないまま、自分たちは前へと進んでいんだ。仲間を助けるために。「こんなところで寒ないか、ニア」デッキで一人、…

君とするキスの温度

 雲海ではない、青く澄んだ海が遠くに延々と続いている。今夜は快晴、同じく青みを帯びた空を星々が瞬き、水面に反射していた。 白で覆われた世界も美しかったが、これはこれで美しいと思える。 これらを眺めながらジークは薄い毛布の中で少し身動いだ。座…

欲望コンチェルト

「……お、終わった……」三時間に渡るぶっ通しの台本読み合わせが終わり、鹿島は部室に大の字に寝転んだ。いつものように、いやいつも以上の人だかりをかき分けて鹿島を連れ出し、サボっていた時間を埋めるかのように、演劇部部長の堀による、繰り返しの台本…

前の日

「そろそろ来る頃かなーって思ってたよ」「……チッ」小さな舌打ちをして、リヴァイが後ろ手にドアを閉める。右手には湯気の上るマグカップが2つ。中身は分かる。彼好みのコーヒーだ。けれど、その彼好みの味がハンジは好きだった。「ありがと」ギシギシなる…

この道を。

この道を選んだときから、とうに覚悟したつもりだった。なのにどうして今、この気持ちに気づいてしまったんだろう。────貴方への想いに。「……ハンジ」揺り動かされて、やっとハンジは自分が眠っていたことに気づいた。「あれ……リヴァイ? ここ……ど…

何よりも君を

「……我ながら早まったモンだなァ」7年ぶりの検事室の椅子に体をもたれて、夕神は呟いた。無罪が確定したあの日、ずっと守り続けていた大切な人の娘に。……手を出した。右手で顔を覆う。あの日に全てを自覚した。彼女に対する自分の想いを。「…………ココ…

廻り道した初恋

「……だから、薬師寺さん! 僕にはこんなの必要ない……っ」「直斗……か?」無理矢理振り袖を着せられて、強引に連れてこられた料亭の一室。呼ばれた自分の名に目を見開く。「たつみ……くん?」懐かしい、けれど見慣れない雰囲気に身が引いた。ずっとずっ…

すれ違い

「またおとり捜査ですか?」郁は半ば呆れるような声を上げた。以前、毬江のためにと意気込んで勝手出た痴漢のおとり捜査。それ以降、成果に満足した玄田は、こうして度々郁に痴漢撲滅の任務を命ずる。確かに不埒な人間は郁としても蹴り飛ばして締め上げたい。…

貴方のしるし

「……堂上……教官」電話の向こうにいる相手の名前を呼ぶ。想像してたより、自分の声は震えていて、こんなにも余裕がないんだ、なんて頭の隅で矛盾したように考える。『郁? どうした、こんな時間に』寝入っている柴崎に聞こえないように、声量を絞る。それ…

芽生え

『あたし、王子様からは卒業します!』 堂上がフリーズし、小牧を笑いの渦に巻き込んだ、郁の王子様卒業宣言から数日が経つ。自分を助けてくれた正義の味方、6年前の王子様。それが、入隊当初から火花を散らしていた目の前の堂上だったなんて思い…

うたたね

「……巽くん?」どこか居心地が悪い教室を抜け出して屋上へやってくると思わぬ先客がいた。フェンスに持たれるように座ってるのは間違いなく巽完二だ。いつもであれば、昼休みに人気のこの場所も、今日は生憎の曇り空で他に誰もいない。(せっかくだから話で…

お酒とふたり 前編

「……笠原士長、寝ます!!!! おやふみなさひ……」「堂上ー! 笠原落ちたぞー」「っ━━━━! だからアンタ方、コイツに飲ませんの止めて下さいよ!!」良化隊との攻防によるひとつの山を超えたある日、図書特殊部隊では慰労会という名の宴会が催され…